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 アイスクリームを買った帰りだった。ドライアイスと一緒に入れた袋をざかざかいわせながら、彼女は足を走らせていた。そこで突然近くに誰か、サーヴァントの気配がして立ち止まる。辺りを見渡そうとした瞬間、がつん、凄まじい勢いで頭を殴られ、彼女は気を失った。



 彼女がぼんやり目を開くと頭が鈍く痛んだ。見慣れない部屋。腰を掛けた長椅子から動けない。でも頭を殴られたから危ない奴がきっと近くにいると彼女は思った。
「目を覚ましたか、セイバー」
 彼女が視線を上の方に向けると、アーチャーが彼女を見下ろしていた。鎧を取り払った軽装で、愉快そうに微笑んでいる。
「なん、の用ですか、英雄王」
「いや、ヴィマーナから落とし物をしてな。まさかお前に当たるとは思わなんだ」
「笑止。わざと、……当てたのだろう」
「はは、そうだな」
 話すのも辛そうな、ぐたりとした彼女の肩を抱くと、彼はそのまま柔らかな長椅子へ彼女を横たえさせた。橙色の小さな電気のみが点いた薄暗い部屋で、頭痛にやや慣れた今も、ここがどこなのか、やはり彼女は見当もつかない。そのときに彼女は、自分の衣服がさっきと違っていることに気付いた。スーツはどこへ行った。真っ白なドレス。これはまるで、
「気に入ったか」
 レースやフリルが抑え目の、可愛らしいドレスだと思う。しかし彼女はこれを着せられていることが不愉快になり、引きちぎろうと思ったがそうすれば肌が露出するのでやめた。彼の言葉を無視する。頭が痛い。
 そのとき彼女はふとアイスクリームのことを思い出して悲しい気持ちになった。きっとあの道で溶けている。だがこの先自分の身に起こることを想像したら、それはどうでもよいことなのだろうと思った。顔にかかる髪を払い除けられ頬に添えられる指。
「う」
 唇を塞がれる。彼女は口を固く閉じていたが、指先が耳に這わせられ思わず口を開いてしまった。瞬間ぬる、と入り込んだ舌先に彼女は呻く。
「っ、ふ、んう」
 頭が痛い。抵抗しようとしても押さえつけられる腕。ひどい。わたしが何をしたというのだろう、と彼女はぼんやりする頭で考えた。温かくて湿ったもの。とろとろと何か流れ込んでくる。
「……うう」
 頭痛が少し楽になった。彼女は顔を無理矢理逸らすと彼を睨み付ける。
「どうやって、これを、着せた……」
「我が着替えさせてやった。有り難く思え、これを見繕ってやったのも我だ。やはり思っていた以上にお前によく似合う」
 また唇を塞がれ、その瞬間、彼女はドレスの前が引きずり下ろされていることに気付いた。いつの間に、と考えるまでもなく彼の仕業なのだろう。先刻唇を重ねている間に行ったのだろう。彼女は前を隠したかったが、片手で腕を押さえつけられ、身動きが取れない。彼女は身を捩ったが、彼は難なく彼女の胸元に舌を這わせただけだった。
「い……」
 なんとも形容しがたいのだが、彼の触り方は、なんとも淫靡なのである。彼女は肉が蕩けていく心地がした。首筋に顔を埋められ、薄い皮膚を吸われる。少し痛いほどで、きっと首筋は赤くなっているのだろうと彼女は思った。胸の外側からゆるゆると揉みしだかれ、胸の先端に彼の指がやって来た瞬間、彼女は思わず悲鳴を上げた。
「あっ、な……」
 思わず長椅子の縁を握りしめる。彼女は彼の拘束する手がほどかれているのに気が付かなかった。彼がきゅうと摘まみ、擦ってくる上、尖らせられた彼女の先端を、べろりと舐めて愛撫する。時々優しく噛まれたり、吸われたり、刺激の種類を変えられるたびに彼女は声を出したり跳ねたりした。彼の動作には明らかに愛があり、彼女が反応する度に嬉しそうにする。
「あ、あー……」
 ドレスの裾が捲り上げられ、彼は下着の上から彼女の陰部を撫でた。そして折り曲げた指の角ばったところでぐりぐりと足の間を刺激すると、陰核のあたりを押し潰すように手を動かす。彼女は声を抑えようとしたが、喉が鳴って音が漏れた。彼は満足げに微笑むと、下着から右足を抜く。そして彼は彼女の濡れそぼった入り口に彼女よりいくらか太い中指を、くちくちと浅く出入りさせた。そんな微妙な動作に彼女は、小刻みに震えながら声が出るのを抑えられない。
「こんなに濡らすとはな」
「わ、わたしに、何か、したのか……」
「するか。すべてお前自身のものだ」
「う、うそをつくなっ、ん」
 ぷちゅぷちゅと水音がするので彼女は羞恥に頬を染めながら足を閉じようとする。しかし閉じようとしたところで彼の手をきつく挟み込むばかりで、彼女は陰核をつつかれた。「ひ、」気の緩んだ足を開かされ、親指で擽るようにくりくりと転がされ、中指が内側に緩やかに差し込まれる。そして深く口付けられ、舌を捕らえられ、その一連の動作に彼女はとうとう圧し殺した叫びを漏らした。
「んうう……ん、ん……!」
 彼女の指先は彼女の知らぬ間に、彼の背中に回されている。しがみつかれた彼はにやりと笑った。彼女は彼の下で痙攣し、目は虚を見ている。口を離すとだらりと開いた彼女の口は閉じられず、開いたまま口の橋から涎を垂らしていた。
「セイバー」
 耳元で彼が囁くと、彼女はびくんと反応して、あ、と呟いた。
「我の妻となれ」
「……え、あ」
 彼女の足の間に彼自身を宛がう。そうして挿入するわけでもなく、ぬるぬると擦り付けた。
「あ、アーチャー……」
「ん?」
 ほんの少し挿れる素振りをして結局彼は挿れない。彼の手は彼女の皮膚を優しく撫でていた。ぞくぞくと彼女は肌が粟立つ思いがする。(気持ちいい)。彼女は彼が自分を穿つ瞬間を想像して泣き出しそうになった。強く抱き締められたい。空洞を埋めてほしい。
「アーチャー、……あの、あ、い、あの」
「何だ、はっきりしないな」
「……はやく」
「受け入れるか?」
 彼はそう言うや否や、ずぶりと押し込んだ。彼女の小さな膣がいっぱいに広げられ、ぐぷぐぷと音を立てる。
「うあ……あ、おおき……」
「苦しいか」
「……んう」
 彼は挿れてから動かさず、奥まで納めたまま動かずにいた。彼女の内壁がうねり、きゅうと締め付ける。そのままにしていると、彼女が堪えかねたように小さく動き出した。くぷくぷ音を立てる拙い動きに彼は愛しいなあと思って、腰を持って突いてやると彼女は声を出した。
「あ、あ、あ、んう」
「奥がいいのか」
「あ、おく、きもちい……です」
「そうか」
 奥深くに埋めながら、彼はぐずぐずと奥を突く。彼女は足を彼に巻き付けて、彼がゆっくり腰を引くと一生懸命くわえ込んで離そうとしない。彼は尚も引き抜こうとし、そしてずんと抉ると彼女は涙をこぼした。
「っ、っあ、あーっ」
 ぐすぐす泣きながら彼女は彼にしがみつく。彼は動きづらいなあと苦笑したが、彼女を彼女らしくなくさせているのが自分だと思うと感慨深いと思った。抽迭の速さは増して、彼もそろそろ達しそうになり、彼女の唇を塞ぐと、力んだ彼女の爪が背中に立てられて痛みを感じる。しかし食い込んだ爪の分、穿つ性器の分、それらで何だか何もかもが一つになったような錯覚に陥った。





 乱された純白のドレスを辛うじて身に纏う自身の姿を、彼女は白濁した意識の中で見下ろした。投げ出された足。足の間を伝う液体。疲労と余韻で、体は動かない。
「喉が渇いただろう」
 あれから何度か交わりがあり、彼はぐったりしてしまった彼女の頬に冷たい何かを押し付ける。彼女はううと掠れた声を上げた。
「アイス……」
 彼女は自分が買ったものであることを思い出した。
「動けないようだな。今回のみ食わせてやる。感謝しろ」
 スプーンで掬い上げられた目前の白いアイスクリームが、彼女にさっきの行為の際に見たあれを何となく思い出させた。彼女は力なく口を開き、与えられる甘さに身を任せる。つめたい。と思った。彼女は服が乱れているのにも関わらず、目の前の煌めきに気をとられて、嬉しそうに与えられるまま食べ続ける。
「あーちゃー……」
 きもちいい。あまい。たのしい。しあわせ。そればかりで彼女の頭はうまく働かず、もっともっとと彼の愛を求めようとする。彼女の視界は白い。やはり体が動かない。言葉を発するのも億劫になっている。
 彼女は、絡み付くように体を拘束する無垢な白のドレスに、逆らうことを忘れてしまった。




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