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 学パロ


 彼女の側に立つとほんのり甘い香りがして、何のにおいだったかなあともう一度反芻する。潤いのある彼女の桜色の唇。蜂蜜だったか、と思った。
「暑いな」
「もうすぐ夏だからな」
 制服の衣替えの調整期間の中、長袖を着るのは日焼けを気にする一部の女子くらいなもので、殆どが半袖の軽やかなものを身に纏う。彼女も夏服を着ていた。
「今日はアイスを食べて帰らないか」
「妙案だな」
 ちょうど安い日だったはずだ、と彼女は嬉々として言いながら玄関で靴を履き替えている。紺色の靴下に包まれたふくらはぎの丸み。何故いきなりそんなところが目についたのだろうか。俺は自身の頬を軽く叩いた。



 サーティワンの遊び心溢るるアイスクリーム。ガラスの箱に入った宝石のような色彩のそれらを、彼女はきらきらした目で眺めて、苦しそうに二種類を選ぶとワッフルコーンに積んでもらっていた。俺も二種類選んで同じようにワッフルコーンにする。そして外に出ると、日陰でのんびり食べた。今日は妙に時間に余裕のある日だった。
「ディルムッドもたまには新しい味のものを食べれば良いのに」
「好きなものばかり食べてしまうのは良くないことか」
「そうでもないが、新しい発見を求めるのも楽しいぞ」
「そうだなあ……」
 彼女は毎度新商品の文字に踊らされて、同じものを滅多に買うことはない。決まって不思議な色合いのものをよく選んでいる。しかし今日は珍しくバニラとポッピングシャワーを選んだので、食べるたびに隣でパチパチ音が聞こえる気がした。

 アイスクリームを食べ終えても、だらだらと話し続けていたので、気がつけば空が橙に染まっていた。腕時計を見たらアイスクリームを食べ終えてから一時間ほどここにいたことを知る。
「そろそろ帰るか」
「ああ」
 日陰から暖かい色をした光のもとに歩き出した彼女は伸びをした。透き通るような、半袖から伸びる白い腕。金色の髪が光を吸ってのどかな小麦畑を連想させた。スカートの裾から覗く美しい足と、髪を結い上げているので見えるきれいな首筋。意識をしたことが今までなかったぶん、彼女の佇まいの優美さを改めて思い知らされて、なんともいえない気持ちになった。
「ディルムッド」
 黙ったまま彼女の後ろ姿をぼんやり眺めていたので、彼女がどうしたのだと言いながらこちらを向いた。いや、なんでもないと言うと、彼女はそうかと言って笑った。



 帰り道、彼女が鞄から出して、さっと塗ったリップクリームから蜂蜜のにおいがしてどきりとした。心臓がちくりとする。だがそれは嫌な感じじゃなくて、何かさっき食べたアイスクリームのような、なんというか、存外に幸せな感じがしたので、気にしないことにした。


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 7500/ハイネケンP





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