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 魔力供給。どうしてこんなやり方なのだろうと思う。苦しいし、痛いし、でも、嫌いじゃないかもしれない。と思ったのが、ついこの間のことである。



「……セイバー?」
 隣を歩いていた彼の指先に、わたしの指先がぶつかる。たったそれだけのことで、わたしの心臓は跳ね、体もびくりと震えた。気付かれていないと思ったが、気付かれていたようで、訝しげな顔をして彼はこちらを向く。わたしは何でもないと笑ったが、何でもないはずがなかった。彼の骨ばった大きな手がわたしを捕らえて蹂躙する様を瞬間的に想像してしまう。早く夜になればいい。夜になればいくらでも言い訳ができる。わたしの頭の中身はいつの間にか蜂蜜にでもなってしまったのだろうか。そんなことばかり考えて、とろとろのぐちゃぐちゃに成り下がってしまっていた。彼が良いなら、この場でも!しかしここは些か人目につきすぎる。
「セイバー、顔が……」
「何ですか、何かついていますか」
「そういう訳ではない、体調不良かと」
「え、」
「赤いぞ」
 言いながら、彼の手がわたしの額に触れた。彼の手を熱い、と思うと同時に心臓が痛いくらい早鐘を、
「熱はないようだな」
「……ああ、風邪はひかないだろう、わたしたちは」
 いつの間にか人気のない路地裏に来ていた。風邪はひいていないが、頭がぼんやりして、大小さまざまな色をした魚が、視界を泳いでいるように見える。ゆらゆら熱に身を任せてわたしは彼の手のひらを掴むと自身の頬に押し当てた。彼の驚いたような声が聞こえたが、そのまま唇をつける。彼を不快な思いにさせているかもしれない。しかし指先を甘噛みしたい。もっと彼に触れたいと思う。
「わかった、わかったから」
 彼は困った顔をしてわたしの口元から指を引き抜くと、わたしの唇を優しく塞いだ。こんなところに来たのは偶然だったのか故意だったのか、よくわからないが、今はどうだって良い。彼としたいと思うのは罪なのか。そうだ、だから魔力供給なのだ。これから対等に戦うために、魔力を等しくしたいから、わたしたちは交わる。無理矢理な言い分だが、わたしにとってはこれ以上の理由が見つからない。彼の熱を持った吐息に背筋が粟立つ。そこに愛なんてない。



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