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 彼女が制服を着ていた。街で見かける、同じようなものがある中のひとつの、紺色をした海兵のような服。揃いの紺色のスカート。肩から鞄を下げ、手に長い棒が入っているように見える袋を携え、街を颯爽と歩いている。俺は彼女の後ろを歩いていた。俺は彼女に従わなければならない。なぜか。彼女の手には俺を従わせる令呪がある。
(彼女もサーヴァントではなかったか)
 自分がサーヴァントであるのに間違いはない。そして俺は彼女をセイバーと呼んでいたはずだった。しかし、彼女をそう呼ぶことができなかった。口をついて出たのは。
「……あるじ」
「どうした、ランサー」
 彼女はぱっと振り向いて言った。
「わたしは、貴殿に召喚されたのですか」
「なにを言っているのです」
 彼女は心底不思議そうな顔をした。
「僭越ながら主、わたしは貴殿ではなく、別の誰かに喚ばれていた気がしてならないのです」
「……そうは言っても、わたしがお前を召喚したことは間違いではないのだが。わたしが不服なのか?」
「とんでもない。むしろ僥倖でございます」
 俺がそう言った瞬間、彼女は勢いよく吹き出した。
「ははっ!それならよかった、わたしは聖杯戦争に参加することが初めてだし、右も左もわからない赤子同然だ。そんなわたしにそう言ってくれるのなら、嘘でも嬉しいぞ」
「……嘘など」
「お前は優しいな」
 体の中を血液のように行き渡る彼女の魔力が温かく染み入るようだった。思わず抱き締めたくなる。彼女が主で、本当に、心の底から嬉しいと感じている俺がいる。
「街をよく見渡せることの出来る場所を見つけたのだ」
 俺の思考を知らないまま彼女は変わらず歩き続け、そうして、公園を抜け、小さな山に入り、しばらく進んでいると開けた視界のよい場所に出た。
「冬木の街を、大雑把にだが一望できる場所だと思った。どうだろう」
「素晴らしいです、よく見える」
「お前が戦いやすい場所は、どこだろうか」
「ばしょ」
 彼女を見遣ると、一瞬こちらを向いて目を逸らし、赤面したように見えた。時分は夕方である。夕陽のせいだろうか。
「……いや、ただの自慢だ。わたしはこの場所を綺麗だなあと思ったので、お前に自慢したかっただけなのだ」
 彼女の優しさに涙が零れる思いがする。口元は思わず綻んでしまっている。幸せだと感じた。彼女のためならなんだってしたい。彼女のためなら死んでも構わないと思った。
「……主」
 彼女の金糸の髪がさらさら風に揺れている。再び振り向いた瞳の美しさは、はっとするほどだった。跪く。彼女の手を取って、その甲に、唇を捧げる。
「期間は短くとも、俺は、貴方のために尽くします。どうか」
 驚いた顔をしていたが彼女は笑って、俺に手を掴まれたまま膝を地につけた。
「お前の一人称は、今の方が好ましい。そのまま、わたしには砕けた口調で話してほしいと思う。わたしも、お前に尽くそう、ディルムッド。二人で勝利を」
「必ずや」
 ずっとここにいたいと思った。目を、覚ましたくない。



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 なんとかPの
 Smile knight EPから
 影響を受けました
 すばらしいタイトル!!!!



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