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 学パロ






 バス待ちをしていた。暇潰しに持ち歩いていた本を読み終え、鞄に片付けようとする。すると待てと制止の声が掛かった。いつの間に側にいたのか、ギルガメッシュだった。
「その本は面白かったか」
「……ええ、わたしにはとても」
「ならば貸せ。まだバスが来るまで十分はあるからな」
 大切な本なのである。財閥の息子である、所謂ボンボンの彼はものを大切にするという概念は持ち合わせていなさそうだと思ったが、仕方なしに貸してやった。彼は満足げにわたしから本を受け取り読み始める。手持ち無沙汰になったわたしは目の前を走っている車の数を数えたり反対車線側にある反対方向行きのバス停に立っている人を眺めたりして時間を潰してみた。隣でぱらぱらと本を繰る音が聞こえる。随分速い。
「終わったぞ」
 えっと思わず声が出た。彼はまあまあだったな、とそれなりに楽しそうな顔をして言う。
「速読が得意なのか?」
 尋ねるとそんなこと出来ずとも本など読めると返されてしまった。にしても読む早さが尋常じゃない。
「読書など、導入と結末さえ楽しめればよい娯楽に過ぎぬ」
(そういうことか)
 どちらかといえばわたしは読書は時間を掛けてこそ楽しめるものだと思っていたので、腹が立つだとかそういった感情は湧かなかったが、彼とはきっと馬が合わないのだろうなと思った。
「……中盤が、最も面白い場合もあるが」
「しかし竜頭蛇尾なものほど、不愉快なものはないぞ」
「…………」
 彼とは根本的に思考経路が違うのだ。彼を納得させる気はなかったので、まあいいか、とため息を吐いた。
「おお、バスが来たぞ」
 今度こそ本を片付け、バスに乗り込む。わたしは最終のバス停で降りるので、一番後ろの広い座席に座るのが好きだった。いつものようにそこに座ると彼もそこへ来て隣に座った。特に共通の話題を持ち合わせているような関係ではないので無言で窓の外を眺めていると彼が、なあ、さっきの本の主人公がな、と突然話し出したので驚く。
「主人公がどうした?」
「何ゆえ最終的にはじめと違う女と結ばれていたのかがわからぬ」
「……」
 呆れてまたため息をつくと、本を取り出す。
「それが気になるほどのめり込めたのなら、今日一日貸してやる。書物というものは、すべて読んでこそ理解出来るものなのです」
 拒否されるかと思ったが、彼はほう、と何故かしら挑戦的な笑みを浮かべながら本を手に取った。汚してくれるなよ、と言うと彼はその時には何冊にでもして返してやると答える。やはり生粋のボンボンだなあと思った。しかしそれからバスの中で真剣に読み耽り始めた彼の横顔を見て、存外に嫌な奴ではないのかもしれないと、思う。


……………………………
タイトル:棘



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