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 一緒に帰ろう だなんて台詞、相手が相手だけに言うのもおかしいが、口からまろび出たものは目に見えなくても消せたものでなく、焦って赤面したわたしに彼はただ笑って たまには良いかもな と言った。
「昔はもっぱら仲間と行動していたから、この頃ひとりで歩くのも飽き飽きしていたところだ」
「わたしもだ」
「はは、騎士王も孤独はお嫌いか」
「当たり前です」
 と言ったところではっとする。孤独なんて嫌いに決まっているだろう。足元をかさかさ捨てられた何かの紙が転がっていった。(わたしは矛盾している)。
「今日は冷えるな」
「そうですね」
「そういえば」
「どうした」
「爪が伸びないのだ」
 と、突然彼が真面目くさった顔をしてそう言ったので思わず吹き出してしまった。
「いや、お前は笑ったが、俺はやはりこの世のものではなかったのだなと思い知らされたぞ」
「そうだな、しかしわたしはずっと変わらなかったのだ」
「ずっと?」
 そう言って彼はわたしの顔を覗き込んだ。わたしは彼のきんいろが瞬くのを見る。
「王となった瞬間から、わたしは老化しなくなった。爪も髪も、背も変わらない。年を取らないということは、死んだも同然だと」
「思っていたのか」
「そんな気がした」
「ふむ」
 そう感慨深げに彼は唸ると そういえば俺も、老いを知る前に死んでしまったのだった と他人事のように言った。
「死は知っているのにな。不思議なものだ」
「悲しくないといえばうそになるが」
「まあ、しかたないな」
 ごとんごとん音が聞こえる。高架下。現代には電車が走り、飛行機も車も船も、なんだってあるから、人の足だけでは時間がかかる場所へ、かるがると行くことができる。だが、あの頃だって自分の足で、どこへだって行けた。鉄の塊なんてなかった、今よりもずっとずっと美しい世界に、わたしたちはいたはずなのに。
「……もうここまで来ていたのか」
 二人で歩くことのできる最後の場所まで来ていた。戦わなければならない義務が枷になる。側にいてもっと話をしていたいが、今は彼と別れなければならない。
「俺は左に曲がるが」
 彼は別れ道の真ん中に立って、そう言った。わたしは右に進まなければならない。さみしくなったわたしは思わず また会おう と言ってしまった。
「……いや、何でもない、忘れてくれ」
 わたしは自己嫌悪しながら手を振った。よくわからないといった顔をしながら彼は、当たり前のように また会えるだろう? と言った。彼とわたしの会う、という定義は違う気がするがしかし、いままで同じ景色を見てきたような錯覚。どうしてこんな気持ちになるのだろうとわたしはひたすら不思議だった。
「では」
「さようなら」
 進むふりをして彼の背中を見送る。
 またあした と、言いたかった。


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 一緒に帰ろう また会おう さようなら
 というキーワードを含んだ小説を書くという
 ツイッターでのお題をRTしていただきました



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