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 夕暮れ時の人気のない公園が好きだった。
「思っていたより重いな」
「はは、長さがあるからな」
 ランサーの槍を、彼の真似をして一本回してみようとしたが落としそうになって慌ててやめる。そうして槍を返して、わたしの剣を眺めているランサーの隣に座った。先日の戦いでランサーが軽々と二本を振り回していたので、どんなものかと思っていたのだが、やはりランサーは只者ではないと思い知る。
「お前の剣も軽くはないが」
「貴方も生前は剣を持っていたはず」
「知っているのか」
「勿論」
 だから剣の重みも、よくよくご存知なのでしょう。言うと、ランサーはわたしに剣を返しながら、お前の剣ほど、俺のは大層なものではなかったぞと言う。
「……謙遜を」
 反射的に口を衝いて出た。ランサーはふうと溜め息のように息を吐くと苦笑する。
「なあ、つくづくお前は自分を卑下しすぎだと思うのだが」
「そんなことはない」
「ではお前は自身の誇れるところを即答出来るか、どうか」
「わたしは、……」
 過去のことを思い返してみても、誇れると思うことの出来ることが、浮かびそうになっては消えていく。剣は、政は、王としての生き様は、果たして、どうだったか。
「……やはり黙ってしまうか」
「ならば貴方はどうだ」
「俺は槍を二本扱えることだな。他に同じことの出来る奴がいたとしても、こればかりは誇りに思いたい」
 冗談でも言うかのように、軽い調子でランサーは言う。わたしはそれが本当のことであるのに、何故そんな言い回しをするのだろうと疑問に思ったので、真剣に言葉を返す。
「尤もだな。貴方の槍捌きは本当に素晴らしい」
「お前は人をよく褒めるな」
「それは貴方もだ」
 さっきから妙にランサーがわたしの体裁を整えようとしてくれている気がする。優しい人物だと思うと同時になんだか情けなくなりひどく気分が沈んできて、悲しくなってきた。自然とランサーから顔を背けると、そのまま言葉を紡ぐ気が失せて、わたしは黙り込む。
「セイバー」
 突然ランサーがわたしの肩を掴んで、目を合わせてきた。美しい金色の瞳がわたしの瞳を捉らまえて、目を逸らせなくさせる。わたしに彼のチャームは効かないが、そうされるとなんとなく魅了されてしまう女性の気持ちがわかる気がした。
「先日、何やらライダーやアーチャーと問答をしたということを耳に挟んだが、俺がもしその場にいたとすれば、俺はお前を正しいと言ったはずだ」
「……」
「もしもあれのせいで気を病んでいるのならば、忘れろ、セイバー。お前とあの二人は、違う」
 アーチャーにも似たようなことを言われたはずなのに、どうしてランサーの言葉は彼と違って、わたしの中に深く入り込んでくるのだろう。泣きそうになるのを堪える。女々しいことをすればきっと、そんなことはないとわかっているはずなのに、ランサーはわたしを見限るような気がした。女らしさを見せてしまうと、いけない。
「……ありがとう、ランサー。少し気持ちの整理が、出来た」
「そうか」
 無理矢理笑うと、ランサーが歯を見せて笑った。そういった笑い方をする彼を初めて見た。その瞬間少し胸中穏やかでなくなり、一体どうしたのだと自問自答すると同時に傷めた親指の腱がじくりと痛みを発して我に返る。あくまで目の前の彼とは、敵対関係にあるのだ。頭の中が、すっと冷えた気がした。



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