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 検診がおわって、服の前のボタンを止めていると、すてきな帽子だね、と先生がわたしのベッドのそばの棚に置いている、ペンギンのかたちをした帽子を見て言った。わたしはありがとうと、言う。
「あれはね、冠ちゃんと晶ちゃんとわたしで水族館に行ったときに買ってもらったの」
「へえ。おもしろいものが売ってるんだね」
 先生がわたしの手の届く場所にある椅子に座っていたから、わたしは帽子を手にとって、先生の頭に乗せてみた。先生はとてもびっくりした顔をした。
「かわいい」
 わたしが言うと、先生はふっとほほえんで、だよねえと言った。わたしは先生の服と、帽子の雰囲気がなんとなく、王さまみたいだと思った。思うと同時に、口にも出した。
「王さま?」
「うん、先生の服って、あんまりお医者さんみたいじゃないから」
「そうかな」
「だって、お医者さんって、だいたい白衣を着てるでしょ?」
「そうだね」
 先生は帽子をはずすと、ほほえみを絶やさないで、わたしの頭にそれを乗せた。ぽす、とわたしの頭を帽子がつつみこむ。
「君のほうが似合うね」
「え、あ、ありがとう」
「君だって、女王さまみたいだ」
 いつかわたしも晶ちゃんにそんなことを言ったおぼえがあったけれど、他人に言われると、なんだか照れるなあと思った。顔が熱い。帽子をはずし、もとに戻す。
「……さて、僕は仕事に戻らないと」
 先生が立ち上がって、わたしの頭をなでた。
「そっか」
「さみしいのかい?」
「そ、そんなことないよ」
「ふうん。まあ、君のお兄さんたちがそろそろ来る時間だから、さみしくないよ」
「あ、本当だ」
 時計の針は、四時まえを指している。
「いつも来てくれるんだよね」
「そうだよ、まいにち来てくれるの」
「シビれるねえ。やさしいお兄さんたちだ」
「うん、とっても」
「だから君は、はやくよくならないと」
「がんばります!」
 また先生は、シビれるねえと言って、病室を出ていった。
 だれもいなくなってたいくつになったので、わたしは編み棒と毛糸を取り出すとちゃかちゃかと適当に編み出す。サンちゃんのマフラーでも作ろうかな、とか考えてたら、冠ちゃんと晶ちゃんがやって来た。



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