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 儚い感じがする意識はいつまで経っても消えない。

 「ああ、ヒカリちゃん」

 珍しいねと彼は言う。わたしこそ珍しいと思った。
 ミオの図書館に彼はいた。

 「……ゲンさん」

 彼は笑うと読んでいた本を棚に納める。何を読んでたんですかと訊ねると彼はもう一度本を出して表紙を見せてくれた。

 「シンオウの神話ですか?」

 「うん」

 ちょっと掘り下げて書いてあるやつなんだけどねと彼は笑った。

 「…改めて気になったんだ。何もかもの始まりがポケモンだなんて、改めて信じられなくてね」

 そう言って微笑んだ彼の笑顔にまた、儚い、と感じた。

 彼にはしっかり存在感はある。
 だが一瞬でそれは弾けて、次の瞬間には泡のようにどこかへ消えてしまいそうな気がするのだ。

 「ゲンさんは神話とか、信じるタイプなんですか」

 彼は唸った。

 「わりとそうかな。ありえないけれどありえそうな感じを信じたくなるのかも」

 ああ、そうか、と思った。
 まさにわたしが彼に抱く感覚は、そんな感じなのだ。

 「わたしは、ゲンさんがそんな感じがします」

 思わず呟くと彼は驚いたように目を見開くとそうなのかい、と笑った。

 「ありえない感じがするんだ」

 「でもありえそうな感じもします」

 ふーん、彼はくつくつと笑うと実はね、と呟いた。

 「わたしも、君のことがそんな感じ、していたよ」

 「そうなんですか?」

 「うん」

 彼は本を片付けながら続ける。

 「……鋼鉄島に突然現れて、そしていなくなるんだ。後で幻かと思ったよ」

 それはゲンさんの方です。

 言いかけてやめる。
 彼の整った顔を見ているとなんだか胸が切なくなる思いがした。幻、そうか、幻か。口の中で反芻して、わたしは存在を確認するように、右手を握りしめて左手で彼の服の裾を掴む。僅かに温かさがあって、いつの間にかちゃんとここに存在しているということを再認識せずにはいられなかった。




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