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 挑戦者が溜まっていたらしく周りの人たちに急かされてようやくジムに重い腰を上げ出掛けたデンジさんの部屋でわたしは冷蔵庫にあったミックスオレを飲みながらぼんやりテレビを観ているとチャイムが鳴ったので、はあいと高く通らない声で返事をしながら魚眼レンズを覗くと彼の赤い友人が立っているのを確認する。扉を開くとデンジさんがいると思っていたらしかったその人はわたしが出てきたのに驚いたのか幾分拍子抜けした顔をしていた。やはりわたしの声は聞こえていなかったらしい。とりあえず部屋に入ってもらうとダイニングの机の備え付けの椅子に座ってもらう。
「オーバさん、何か飲みますか」
「あ、おかまいなく」
「わかりました」
 湯を沸かしながら、棚に置いてあるかつてわたしの選んだアップルティーの葉を取り出す。デンジさんはあまり好きじゃないと言っていたのでわたし一人で消費するのは寂しかったからこの人に出してみようと思った。
「熱いから気を付けてくださいね」
 オーバさんに淹れたてのアップルティーを差し出すと彼はふうふうやりながら口を付けた。オーバさんは美味しいといってくれたので安堵する。そしてわたしはオーバさんに何か御用ですかと訊ねてみた。
「用っつーか、なんでもねえけどさ」
「はあ」
「デンジとミカンちゃんて、付き合ってんの」
 わたしは首を傾げてほぼそんな感じなのでまあそうかもしれないですと答えてみる。適当だなあとオーバさんは苦笑した。
「なに、告ったとかないの」
「ないですねえ、でも」
 わたしがそれ以上言うこともないのに妙な否定を置いたのでオーバさんは意味深長そうな顔をした。わたしはやっぱり何もないです、気にしないでください、と言いかけたそのとき。
「ミカンちゃん」
「はい」
 机に肘をつけて軽く指を組んだオーバさんはわたしを見上げるように視線を送ってくる。なんでしょう、と言うと彼の口が開く。
「なんでミカンちゃんはあいつと一緒にいるの」
 わたしは何とも答え難い問いに詰まる。なんでオーバさんがこんなことばかり訊いてくるのかわからなかった。
「……えっと、」
「はは、わかったわかった」
 わたしが俯くとオーバさんはそれ以上何も訊いてこずに笑った。そしていきなり真剣な目をしてわたしの目を見る。
「ミカンちゃんさ」
「はい」
「あいつと別れない?」

(どうして)

 一瞬凍りついてそう言い掛けたその瞬間、がちゃり部屋の扉が開いた。
「何やってんの」
 面倒そうにデンジさんが靴を脱いでいる。



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