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「例えばクリスマスだ。なにか欲しいものとか、ないのか」
 窓の外を眺めながら彼が問う。わたしは唸って、特にないですねと答えた。
「あれ、君はもうサンタクロースの存在は信じてないのか」
「わたしを幾つだと思ってるんですか」
「いや、俺が君くらいの年のときは、サンタクロースはいると信じていたよ」
 彼はずいぶんと幸福な子供だったのだろうと思う。わたしだって世間一般でいえば幸福な子供のカテゴリに収まるだろうが、なんとなくどことなくうっすらとそれを望んでいないわたしがいるのだ。わずかに影を背負うおんなのこでいたい。中二病だろうか。やだなあ。
「デンジさんは」
「俺?」
「はい」
 彼は窓から目を離すと今はサンタなんて信じてないが、と前置きをすると新しいなにかの機械が欲しいと面白味に欠ける解答をする。わたしはただそうですかとだけ答えた。
「大人の俺でも欲しいものがあるのに」
「わたし、これといった趣味とかないんです。だから母からは毎年お小遣いをもらっていました」
「じゃあ今年も」
「きっと」
 彼は困ったように笑うと、それだけでなにも言わなかった。
(そうだ)
 わたしは、物質的ななにかはいらない。ただ、彼が気を許した相手に対してだけことば遣いが変わってくるのを知っているの。わたしはまだ、許されていない。
「デンジさん」
「ん?」
「わたしのこと、君って呼ぶの、やめませんか」
 望むならば、そのくらいだ。



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