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 彼を食事に誘うと一緒に来てくれた。湖の側の、夜景のきれいなレストランとかそんなドラマにでも出てきそうなところで食事をし彼の分まで会計を済ませようとしたが奢ってもらうのは何だかなあと言って結局彼が済ませてしまったのが申し訳なかったので店を出てお金半分返しますと言ったところその提案は却下されてしまった。「折角誘ってくれたし」。でも恩を売るようで嫌だ。オブラートに包んでそう言うと彼はじゃあキスでもしようかと言うので驚くと言うより呆れてしまった。
「何なんですか」
「あーうん、そうだな」
「冗談きついです」
「ははっ」
 こんなガキ相手に何言ってんだろうな、と彼は感慨深げに頷きながらわたしの頭を撫でる。彼に触られたところをむず痒く感じた。感覚のないはずの髪が燃えるように熱い。
「お金は払うので、……ありがとうございました」
 万が一彼が財布を出したとしても自分の分は自分で払うつもりだったので、会計の時にレジの画面に浮かんだ金額の半分を、今まで貯めていたお小遣いを崩したお金の入った財布から取り出して押し付ける。彼の胸元に押し付けたのだが彼は受け取ろうとせず、わたしが手を離すとばらばらお金は落ちていった。どうしようもなく恥ずかしくてわたしはそのまま踵を返して走ろうとしたら腕を掴まれてしまった。
「放してください」
「照れんなって」
「照れてないです」
「じゃあ」
 前のアレは嘘だったのか、と彼が言う。
「俺のこと嫌い?」
「そうじゃないです」
「好きか嫌いの二択なら」
「……狡いですよ」
「なあ」
「…………」
 少し前失態を晒した。彼への感情を一時の勢いで吐き出してしまったことがあった。
「少なくとも嫌いでもない奴にああ言われて嬉しくないわけないだろ」
「デンジさんは慣れてるでしょう」
「なにに」
「女性関係」
「そんなことないって」
 タチの悪い冗談にしか聞こえなかった。大人は。これだから狡い。
「デンジさんは恋人がいらっしゃるじゃないですか」
「まあそうだけど」
「彼女さんは」
「今日のこと知ってるから」
「え……?」
 彼女に知られていただなんて、羞恥に煽られて死にそうになった。今日のことは彼の気まぐれなんかではなかった。今日の出来事は彼と彼女の信頼関係の上に成り立った、ただ可哀想な子供に慈雨を降らせるような出来事だったのだ。
「は、放してください!」
「落ち着けって、おい」
「ひどいです!そんなのわたし、ただのわがままな子供じゃないですか、本当に、嬉しかったのに!」
「違うって」
「馬鹿だなあって思いましたよね、でも、しかたないじゃないですかあ……」
 泣き出したわたしに彼は狼狽しているようで、必死に宥めようとしてくれる。でもわたしはしつこく泣き続けて、とうとう彼は呆れたのか、悪かった、と言い残して行ってしまった。その瞬間、もうこの世界でわたしがいちばん惨めなんじゃないかなあと思った。遠退く彼の背中が、滲んで消えた。







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 と思ったらどっかの自販機でカップのココアとか買ってきてくれるデンジさんとか素敵



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