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 ふと気付けば携帯電話のデータフォルダには彼の写真ばかりあった。その殆どが寝顔なのは起きているとき普段ぼーっとしているくせにカメラを向けると途端に顔を背けるのでまともな写真が一枚も撮れないからである。ソファに座りながらぼんやりテレビを観ているとひどい喪失感に襲われたので携帯電話を覗いたのに、彼のいつもの顔を忘れてしまいそうで余計にひどい喪失感に苛まれる。
(この番組、デンジさん好きだったなあ)
 わたしが彼の家を出たのにも関わらず、たった今どうして彼がいないのか疑問だった。わたしが観ていたテレビはただの旅行番組でだらだらと様々な街が映し出されるだけのものであったがそれを随分楽しそうに彼は観ていたのだ。わたしも好きだったし、見る視点が違ったりしてそれについて喋ることも楽しかった。なんで今彼がいないの?
 テレビを消す。目の奥が温かくなっていく。涙、だと理解する前に頬を伝って零れ落ちていった。すると突然滲む視界に映ったのは彼の何か機械を触る背中で、気を緩めればうっかり彼の鼻歌までもが聞こえ出しそうなのだ。ありえないと我に返ると不意に窓の外でがしゃん、がしゃん、機械の軋む音がして窓を叩く音。彼の声がして、迎えに来たよ、
(うんありえない)
 瞬きをして涙のベールを取り払うと自分一人だけの部屋。そもそも彼は白馬の王子さまになれるような器じゃない。知ってるよ。
(そういえば空を飛ぶ家作りたいとか言ってたような)
 思い出し笑いをすると息を吐いた。わたしはきっと誰よりもロマンチストなのだ。彼は空を飛べるお城を持っているのだから、今すぐ飛んで迎えにきて、なんて思いが、頭を過るなんて!



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テーマ「人外ファンタジー」
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