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 あてもなく歩きながら僕は、後ろを付いてくるトウコに話しかけた。
「トウコ、僕の名前を呼んでみて」
「N」
「うん、そう」
 でもそれが嫌なんだ僕は。と言うと彼女は不思議そうな顔をした。
「だってさ」
「うん」
「Nってただの記号だと思うんだ」
「そういえばそうだね」
 彼女は小さく頷くと小さく記号かあ、と呟く。それから口を開いて少し躊躇うように言った。
「じゃあN」
「うん」
「もし、良ければなんだけど」
「うん」
「わたしがなまえ、付けてあげようか」
 思わず立ち止まって彼女を振り返る。だが間抜けな顔をしているであろう僕に彼女は悪戯っぽく笑って冗談だよと言った。
(新しいなまえか)

 そんな、でも、……それって、いいかもしれない。

「……なまえ」
 僕が呟いたら彼女は笑うのをやめて僕を見た。彼女は突如黙り込んだ僕にどうしたのと声を掛けてきたが、被せるように彼女の目をじっと見て言った。
「僕に、新しいなまえをつけて」
 彼女は目をちょっと見開いて驚いた顔をしたが、みるみる表情を綻ばせてわたしで良ければと答えた。僕は彼女の笑みにひっそり決意する。そこからまた僕は新しくスタートするんだ。



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