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「トウコ?」
 ふと知った声がした。後ろを振り返ると風に舞い上がる緑の髪、
「……N」
 なんと彼がライモンシティの遊園地で風船を配っていた。
「……何やってんの」
「シゴト、見つけたんだ。僕は英雄じゃないから、普通に生きていかないといけないから」
 そう言って無邪気に笑う彼の笑顔はとても楽しそうだった。遊園地の係員のポロシャツは彼によく似合っていた。
「トウコ、ちょっと待ってて風船配り終わったらすぐそっち行くから」
 わたしは相変わらずの早口で捲し立てられ、思わず頷くと彼はまた笑って手を振ってきた。



 ジムの近くのベンチでぼんやり座っていると、お待たせと係員のポロシャツのまま風船を一つ持った彼がやってきた。
「トウコ、はい」
 淡い青色をした風船を彼は差し出してくる。ありがとうと手を伸ばすと紐を手首に巻き付けられた。手首から風船がゆらゆらしている。
「N、さ、」
「トウコ」
 話し掛けようとして遮られる。彼は笑顔でもう一回観覧車乗ろうよと言ってきた。わたしは風船を手首にに縛り付けたまま、また頷いた。彼はやはり嬉しそうに笑う。そして行こうと腕を引かれ、わたしたちは観覧車へ乗り込んだ。
「……観覧車乗ったのちょっと前なのにね」
 彼は嬉しそうに言う。緩やかに上昇する景色、それに目を向けず彼はわたしの目を見据えて話し出した。
「随分色々と状況が変わっちゃったけど、」
 また君に会いたかったよ。
(……あ)
 あんまり無邪気にそういって彼が笑うから泣きそうになった。彼にもらった風船が揺らぐ。彼はきっともうさよならなんて言わない。そう信じたくてわたしは小さく頷くそうしたら、また彼は無邪気に笑ったのだ。



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