b | ナノ
きみに言いたいことがあったんだ。
ポケギアを持っていなくてごめん。
どちらにせよ僕がいるところは電波が届かないだろうから、持っていても、きっと意味がないと思ったんだ。
それと、山から降りられなくてごめん。山から降りるのは何だか怖い気がするんだ。誰かに会うのが怖いとかそんなのじゃなくてさ、何て言うのかな、……やっぱり口じゃあ説明できないけど、そういうことで。
あと、僕はとても嬉しいんだ。きみに会えてとても嬉しかった。まさか僕のいる場所に誰か来るなんて想像もしなかった。だから僕は、
「僕は、……」
「きょうは、饒舌ですね」
言葉に詰まった僕に、くすりと目前の少女は笑う。困ったように眉尻を下げて。
「……うん」
「レッドさんじゃないみたいですよ。変なかんじ」
「……そうだね」
頭の中では言いたいことがぐるぐるしているのに思うようにいかない、違う、ほんとうに言いたいことは未だちゃんと言えてないのに。
「僕は、言葉にするのが苦手だから」
頭を掻くと俯いて息をした。シロガネ山の麓のポケモンセンター内に効いている暖房が頭を痛くする。さてどう言えばいいのか、結局わかっていないまま言葉を紡いでしまった。僕は、僕はさあ、
「いつだって待ってますよ、わたし」
顔を上げて彼女を見る。穏やかに微笑む少女は自分よりも随分大人びて見えた。
少女は立ち上がる。
「何か飲み物買ってきます」
「……うん」
その間にでも考えておけという話なのだろうか。いや、でも、
「わかった」
少し歩みを進めた彼女が何がですかと不思議そうに振り向いた。
僕は息を吸って彼女に向けて言う。
「きみに好意を抱いているということだ」
少し間を置いてから、彼女の顔が真っ赤に染まった。