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「マツバの番」
「はいはい」
 二人きりのジェンガとは如何なものか。サイコロを転がしそろそろ終盤に差し掛かりいずれ崩れるのであろう木片の塔から一本、赤いのを抜き取る。そして案外すっと抜けたそれを塔の天辺へと置く。アカネは悔しそうな顔をしてその動作を見ていた。
「はいアカネ」
 サイコロを手渡すと目に見えて険しい顔をしているので笑ってしまった。
「笑わんといて」
 ウチ今月ピンチやねんとか喚きながらサイコロを転がしている。負けたらハーゲンダッツの大きいのを奢る、そう言い出したのは彼女の方なのに。
「うわ、さいあくや」
 サイコロの目は赤。残念ながらさっきの僕のでいい感じの赤い棒は無くなっていた。
「マツバ絶対動いたらあかんで」
「うん」
 揺らさんといてやとかまだ何か言っているのを笑い出しそうになるが堪える。猫が伸びをするような姿勢になってアカネはひたすらあらゆる場所の赤い棒をつついていた。
「あかん…ええのないやん」
 苦い顔をして手を離したが、それから思い切ったようにえいとアカネは上の方の赤いのを押した。僕はそれを見守っていたが、
「あーーーっ」
 アカネが叫ぶ。脆く塔は崩れていった。
「…………」
 時間でも止まったみたいにアカネは床に散らばる木片を眺めている。そして観念したのか溜め息を吐きながらそれらを片付け出した。
「……マツバやったら勝てる思うたんやけどなあ」
「抹茶がいいな僕」
「うぎゃーマツバなかなかSいなあ」
 堪忍してやと言うが負けは素直に認めるらしい。片付けを二人で終えてアカネはポケットから財布を取り出して中身を確認した。
「抹茶やね」
「うん。ありがとう」
 ちょお待っててな、とアカネは立ち上がり部屋を出ていこうとする。僕も立ち上がってアカネの後を追った。
「あれ。マツバどないしたん」
「僕も行く」
「まだたかる気かいな」
「違うよ」
 アカネは首を傾げた。暑いのに部屋に居ったらええやないの。僕はそう言った彼女に笑いかけた。
「僕がアカネの分買ったげる」
 嘘やんほんまにィ、とアカネは楽しそうに言い、ほならウチイチゴのんがええなあと笑った。その笑顔があんまりかわいかったもんだから、もう僕店着いたら全部奢ってやろうと思ってしまった。



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