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 紅白歌合戦を観ながら(正しくは聴きながら)、炬燵に入って温まっている。年越し蕎麦の準備は終えてある。特にすることもなく眠らないように、ただ机に広げたお菓子をのんびり食べたりしていた。
「あー今年も終わるなあ」
 名残惜しいのかそうでないのかわからない口調で彼は机に伏せた。そろそろゆく年くる年に番組は変わる。
「デンジさん年賀状出しました?」
「年賀メールならスタンバってる」
「やっぱり年賀状って大切ですよ、アナログだからこそっていうのあるじゃないですか」
「俺デジタル派だから」
「ご両親には?」
「もー送んねえよだるいし」
「お母さん悲しみますよ」
「お前は?」
「あ、何とか投函済みです」
「何人に?」
「えーと、幼稚園からのお友達もいるんで、……三十枚は超えましたねえ」
「まさか全部手書きなの?」
「頑張りました!」
「……お前もう化けもんだよ」
 化けもんってなんですかと言うと彼は小さく笑った。そんな感じでずっと喋っていたらいつの間にかテレビの画面の中で小さな子供が鐘を突いている。あれは煩悩何個目だろうとぼんやり思った。画面の端の時計は十一時五十八分。いつのまにか年明けまであと二分だった。
「デンジさん」
「ん」
「零時になった瞬間、ジャンプしましょう」
「あー日付が変わった瞬間地球にいなかったってアレ」
「そうです」
「やだ」
 予想してました。でも、あと一分。
「はい、立ってください」
「やだって」
 壁の時計の秒針は六。あと三十秒。無理矢理立たせようとするとようやく彼は立ち上がった。
「今年最後のお願いですから」
「あーもーわーったから」
「ありがとうございます」
「へいへい」
「あ、そろそろですね」
「ん、」

 さん、にい、いち

 まさかの彼がカウントダウン。手を取られとっさに跳ねる。明けましておめでとうございます。地上に降り立ちそう言い合う。彼はすぐにメールを送る作業に入ってしまったが、今年もよい年になる気がした。



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