b | ナノ 意外に彼は凝り性だ。
例えばあたしが土産に持ってきた蜜柑を食べる際、びっくりするぐらいつるつるに皮を剥く。厚い皮をめくり、筋を取って、薄皮を剥く。彼がひとつの蜜柑をやたらとゆっくり食べるのはこの癖が原因だ。あたしが三個平らげたときには、やっと彼は一個食べ終える。そんなペースなのである。
「デンジさんデンジさん」
冗談のつもりであたしの蜜柑も剥いてくださいよと言ってみると、彼は嫌そうな顔をしたがなんやかんやで剥いてくれた。やはり随分この作業に慣れていて、あたしが剥くよりずっと早くつるつるな蜜柑がやって来る。嬉しくてありがとうございますと言うと彼はふいとそっぽ向いて別にと答えた。
そうしてあたしは口に蜜柑を押し込みながら、彼とテレビを見る。ふと彼の視線があたしに注がれていることに気付いた。何でしょう、彼に視線を寄越すと肩を掴んで床に押し付けられる。何なんですかと言いつつも、彼が何をしようとしているかわかっているあたしは汚い人間だ。彼は蜜柑の皮を剥くように、あたしを剥いていく。そうだあたしの名もミカンだったなと、その時改めて思った。