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 「お願いです。ウチを眠らせないでください」

 深夜に電話が掛かってきた。出るとわたしアカネ、今あなたの家の前にいるのというふざけた台詞が返ってきた。何のホラーだい、言いながら玄関を開くと涙目のアカネが玄関の前に本当に立っていた。





 「………どうしたんだい?」

 ちょうど風呂を上がったところだったのだが、時間はすでに二時だ。大変遅い。遅すぎるだろう。だが仕方ないのでリビングに招いてやった。アカネはちょんと机の前に座り、僕も向かいに座る。
 唐突にアカネは話し出した。

 「……調子乗ってもうたんよ」

 とりあえず冷蔵庫で冷やしていた水しかなかったのでそれを出すと、アカネはそれを一気に嚥下した。話を続ける。

 「あんな、寝る前あんまり暇やったから、こうネットで、…ホラー特集探してもうた、みたいな。ほら暑いやん!な?」

 アカネは笑ったがみるみる表情を崩していく。そしてまた涙目。

 「あかんマツバ様ウチもうあかん寝たら絶対怖い夢見る……」
 「……」

 へなへなとアカネは前に倒れ込む。あまりにも馬鹿らしいので思わず笑ってしまった。そんなの冗談でも調べる方が悪い。それと自分はどうすればいいのだろう。

 「じゃあ僕はどうしたらいいの」

 机に突っ伏したままのアカネに問う。

 「……笑いを」
 「?」
 「笑いをください」
 「いやいやいやいや」

 僕ただの人間だから。お笑いできないからと言うとアカネは顔を上げて僕をじっと見る。そして冗談やで、と悪戯っぽく笑った。

 「ウチは今日はここに泊めて欲しいだけやねん。一人は無理。ほんまに」

 「……そう」

 じゃあ好きにすればいいよ、この部屋使えばいいと言うとアカネは心底嬉しそうにありがとうと言った。





 さてそろそろ自分も寝ようかと、自室の布団に収まろうとしたらアカネが枕を抱えて今度は涙目で「やっぱりウチを眠らせてください」と部屋に入ってきた。何で僕の部屋がわかったんだよ。突っ込みたかったが、かわいいので許す。くそう。

 「マツバマツバ、もうちょい詰めて」

 ぐいぐい、僕を布団の端に押しやって来る。仕方ないので詰める。仕方ないなあと言いつつ、僕は冷静に振る舞おうとしたが、実のところ心臓の早さはいつもの何倍にもなっていた。やばい。僕はどうなるのだろうか。一人ぐるぐるしていると、その間にアカネは僕の隣に枕をぼすっと置いて、ふーと息を吐いて、

 「おやすみっ」
 「え」

 そのまますぐに寝てしまわれた。早い。僕のときめきを返せ。

 (……でも)

 疲れてたのかなあと思う。怖くて眠れなかったのなら、それはかわいそうな話だ。それならもう心行くまでここで眠ればいい。僕も嬉しいし。

 「……おやすみ」

 布団に潜り込み僕も目を閉じる。布団の温かさに程なく睡魔もやって来て、僕も眠りについた。





 「……根性なし」

 寝息を立てているマツバの後ろで、アカネは小さく呟いた。



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