b | ナノ


「あれ、ハルカちゃん」
「……ダイゴさん?」
 ミナモシティの海岸線をぼんやり眺めていたら、ダイゴさんに声を掛けられた。どうしてこんなところにいるのだろう。チャンピオンで忙しいはずなのに。
「何でミナモにいるんですか?」
 尋ねると彼はちょっと間を置いて、ああそっか、と小さく笑った。なんだか疲れているように見えた。
「チャンピオンね、ちょっと辞めることになったんだ」
 微笑みながら彼は言う。驚いてわたしは尋ねた。
「なんでですか」
 もしかしてユウキくんがチャンピオンにでもなったのだろうか。いやでも彼は昨日眠いと部屋に引きこもっていたし、チャンピオンとしてリーグに出掛けた素振りなんてなかった。
「……実は父の体調があまり優れなくてね、父の仕事をすることになってしまったんだよ。まだ慣れなくてなかなか辛いなあ」
 でも社長さんじゃないですかと言うと、そうだね、とダイゴさんは笑った。
「だからチャンピオンはミクリくんに任せてる。もともとチャンピオンは彼のようなものだし」
「……え、じゃあルネのジムは」
「彼の師匠がやってるよ。アダンさんっていう人」
「知らない人です」
「だろうね」
 わたしが黙ると、ダイゴさんも黙った。
 ふとダイゴさんの顔を見ると、何だか少し辛そうに見えた。穏やかな彼の表情はそのままなのに。
「…………」
「ダイゴさん」
「うん?」
 ちょっと考えて、わたしは言う。
「わたし、最近水の石が欲しいんですけど」
 一気にダイゴさんの顔が輝いた。それなら今度休みの時に一緒に採掘しに行こう、いきいきと言われ拒否することができない。やっちゃったなあと思ってしまった。
 だけど、今だけでもダイゴさんが楽しそうにしてくれるならそれでいいと思った。子供のような大人の彼を、見てみたいと思った。



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -