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 高+神


 涙を零すふりをする。だが泣き真似が御上手で、と白々しく高杉が言った。
 じとりと見下ろしてくる彼の目の、見えない左目はいったいどうなっているのだろうかと思う。

 「高杉。放せヨ」

 「お前の兄貴ンこと話してくれりゃあ解放してやるって」

 「無理ヨ」

 顔をしかめる。わたしは舌打ちすると腕を縛る縄を千切ろうとしてみたが妙に丈夫で千切れない。また舌打ちする。

 「……そんなに兄貴が大事か?」

 「違う」

 「違う?」

 何がと高杉が言った。煙管に口をつける。カッコつけてんじゃねえよ。言いたくなるのを押さえつけてわたしは答えた。

 「わたし、兄ちゃんのこと何も知らないアル。本当ヨ」

 きょとん、と明らかに一瞬高杉らしからぬ表情をした。

 「知らないのか」

 「だって十年ぐらい会ってなかったし」

 「そうか」

 煙管の煙が天井へ緩やかに上っている。瞬きをする。

 「……まあ、お前の話が嘘か真か、わかんねえけどよ」

 来島、こいつ使い物になんねえわ。

 高杉はまた子を呼び出して、わたしを突然捕まえて拉致して監禁したことに反論する間も与えないまま江戸の往来に放り出す。コノヤロー何しやがる、その場で叫んでみたが、すぐにまた子の姿は見えなくなった。









 わたしは兄のことに関してほんの少しでも同情されてしまったのかと思うと、悔しくて仕方なかった。



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