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 恋愛映画を観ていた。ぐっだぐだのベタな展開のものだったので途中で眠ってしまいそうになったが、とちゅう無意味に挟まれた濡れ場に目が覚める。やたらくさい台詞の男にやたら声のでかい女。本当はこんなんじゃないのに、こんな場面を撮った監督は何を考えていたのだろう。冷めた目で画面を見る。





 正直言ってその映画は面白くなかったので、面白いものだしカップル割引がきくからと無理矢理映画についてこさせ挙げ句無駄金を使わせてしまったのを申し訳なく思った。
「友達が勧めてくれたやつだったのヨ、期待外れでごめんアル」
「いや、それなりに面白かったぜィ」
「嘘ネ」
「そうだな」
 映画館のエントランスのソファにわたしたちは座っている。沖田はわたしが抱えたLサイズの紙の容器の底に残っている少し塩辛くなったポップコーンを口に運んだ。固いもはやポップコーンでないとうもろこしを避けて、わたしも食べる。食べながら沖田の口元を眺めて、美しい造形をしているとぼんやり思っていたらその口が突然言葉を紡いだ。
「なあ、お前さ、処女かィ」
「なに」
「……いや」
 照れた様子もなく訊かれ、わたしは小さく笑うとそういうお前は、と訊いた。
「たぶんお前と同じ」
「……ふうん」
 なんとなくわたしたちの間に沈黙が横たわる。
 知らぬ間に、お互いは大人になっていたらしい。見えない相手の服の下を、不意に想像する。そしてああもう駄目だと思った。こうやって一緒に映画を観に来たりする関係も、そろそろ終わりに近いと知る。



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