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 「俺、後悔してんの。お前置いてったこと」



 ……笑止!

 「何言ってるアルか」

 手を叩いて笑い出しそうだ。兄の様子に比べてなんて今のわたしは冷めた気持ちなのだろう。わたしがずっと前に思ってほしかった思いを、兄は今になってやっとしているらしい。兄の間は悪すぎた。どうでもいいと目の前の噴水の周りを子供が駆け回っているのを見る。太陽の光に包まれたそこはわたしたちのいる日陰のベンチの湿っぽさに比べて煌めいて見えた。く、とストローを噛む。

 「神楽、」

 噛みあとのついたストローを見て兄はわたしをたしなめた。今更兄貴面すんなよ。

 「……ほっといてヨ、もう」

 さっき買ったココアを吸うとずばずばと音がする。もうなくなりかけているらしい。

 「兄ちゃん」

 「なに」

 「わたしの中の兄ちゃんなんてもう空っぽなのヨ」

 立ち上がる。
 空になったココアの入っていたプラスチックをゆらゆらさせるとストローが小さくからからと鳴った。空っぽ。ほんとうに。

 「こんなわたしの中に、兄ちゃんの入る余地はないアル」

 「…………」

 わたしを見る兄の目は笑っていなかった。ただじっとわたしの手元を見ている。そうして口を開いた。

 「なに、まだココア飲み足りないの?」

 「そういうこと言ってんじゃないネ」

 馬鹿にすんなヨ。くしゃりプラスチックを握り潰す。

 「………そっか」

 あはは、乾いた笑いを兄は漏らす。そして兄も立ち上がってそれでも後悔すんのやめないよと低い声で、言った。少し怖い気がした。

 「……また、ね。神楽」

 わたしの肩に手を置いて、そのまま通り過ぎていく。兄の背中はすぐに遠くなった。

 ああ言ったが、兄とはまた会うのかもしれない。もう会わないのかもしれない。どちらでも構わないと思う。そう思っていると目の端が金属製のごみ箱を捉えた。そうだ賭けてみようか、このごみが入れば、外れれば、……

 「ほっ」

 ごみ箱にプラスチックを投げつける。
 それはごみ箱の角に当たって落ちた。

 「………あ、」






 賭けは、外れた。





…………………………………
 捨てきれないのだ



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