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さてわたしは知っている彼はまったくと言っていいほどわたしに興味を示していない。わたしとあなたのついているものは違うし役割も社会から課せられた義務も違います。だけれども彼はわたしをそう見ない。そういう対象として見ない。
(お前、髪伸ばした方がいいかもしんねえぞ)
ほらほらほら彼はまたそんなことを言う。興味を持てないと言うのなら期待させることを言わないで構わないで。ほんの少しでも希望を持ってしまえばおしまいになる。時おり夜中に彼が外へ出て帰ってきて、そのときに纏う匂いとわたしは同じになれないのだから、絶望しかない。パンドラの底の希望はちっとも希望なんかじゃないのに。
「好きヨ」
「ありがとさん」
そう言ってまた夜中に外へと。ねえ顔と感触を無視したらわたしもその夜の匂いと同じものを持っているんだよ。知っているんでしょう。彼の笑顔が全てを粉々にする。
生まれて数年やっとわたしの心に芽生えた思いは未だに育ち続けている。それはわたしの心の器の内からめりめり音を立てて外へ明るみを求めて溢れ出ようとしている。それなのに飛び出して案外明るくなかった外の気配に落ち込んで、すっかり萎れてしまった。わたしの気持ちは同じ値で伸びたり枯れたり、いっそのことあなたの手でとどめをさされたならばどれほど救われたか。
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タイトル:棘