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「チャイナ。映画行くぞ」
わたしは露骨に嫌な顔をした。何でお前なんかと、と目で訴える。
「近藤さんがカップ麺の懸賞で当てたらしいんでさァ」
「ゴリが?」
「ああ。なんかアクションもんらしい」
あ、ちょっと行きたいかもしれない。
俯いてタダアルかと問う。
「近藤さんが行けなくなったから、チケットはあるんでィ。どうせ暇なんだろィ」
「………………」
うるさいアル、と少し文句を言ったがわたしは小さく頷いた。
映画というものを観てみたかった。金がないので観られないと思っていたし、でも本当は凄く観たかった。
「お前の話だから映画館入るまで嘘だと思ってたアル」
映画を観終え興奮したままわたしは言う。
「おま、結構今のは傷つくぜィ」
「ならお前今まで自分のしてきたこと胸に手ェ当てて考えてみろヨ」
「へえへえ」
こんな会話をしながら映画館を出て往来をぶらぶらする。していたらローソンがあったので入るとアイスクリームの新商品と書かれたボードがあったからサドを呼ぶと、何か食わせてやると言うのでまた裏がないか疑ったが結局チーズケーキアイスというわたしにしては珍しく濃いものを選んでしまった。わたしの選んだものを見るとじゃあ俺も、とサドの気に召したのか同じものをレジに持っていき、清算を済ませた片方をわたしに渡してくれる。わたしはありがとうと言った。サドはん、とだけ返事をし、そしてそれを食べながらあたりを散策した。
「サド!あれ何アルか!」
ゆっくり溶けていくアイスもなくなってきた頃、しばらく歩いた先に派手な外装の建物がある。まるで城のような。
「ラブホ」
半ば呆れながらサドは言う。なんでそんな顔するのかわからなかった。
「らぶほ?」
「別名愛の城」
「愛?」
愛かあと不思議に思いらぶほらぶほと呟いているといきなりサドに頭を叩かれる。ぱこんといい音がした。
「だっ!」
わたしは悲鳴を上げて頭を撫でる。何するアルかと叫んだわたしを無視してサドは歩き出した。置いていかれそうになったので慌ててサドを追う。
「サド待つアル」
ぱたぱた走ってサドに追い付く。サドを見上げるとサドは立ち止まり急にさっき言ったことは忘れろと言った。
「らぶほ?」
「そうソレ」
なんでなのかさっぱり理由はわからないままだがさっきと同じ様にまた二人で歩き出す。わたしは何となくサドの顔が赤い気がしたが空が橙に染まってきていたからだった。光が反射して、きっとわたしの顔も赤いのだろう。今何時アルかと言った。サドが腕時計を見て五時三十八分と言い、思っていたより時間は経っていたらしかったことに気付く。サドも同じだったらしく結構まだ明るいから三時ぐらいだと思っていたと言う。
「もうそろそろ晩ご飯の時間ネ」
「だな」
なんとなく帰路につく。そうしたらもうすぐにさよならの時間だ。何だかんだ今日一日は楽しかった気がする。
「じゃあな」
屯所の前に着いたのでわたしはサドに手を振った。そうして歩いていこうとすると後ろから送ってやろうかと声を掛けられたけど、わたしはいらねーヨと答えて歩き出した。
もうすぐ日が暮れる。