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お前さんは常連だからと、取引先の天人が購入した薬のおまけに怪しい薬をくれた。
「俺はそれがどこまで効き目があるか知らないが、いわゆる媚薬ってやつらしいぞ」
ふうん、俺は面白そうだと思い淡い桃色の液体の入った小瓶を懐にしまった。
「神楽、喉渇かない?」
「渇いたあ、暑い溶ける死ぬアルうー」
昨日クーラーが壊れてしまったので家を出るときに暑さで苦しそうにしていた神楽のためにさっき仕事帰りに買ったファンタを飲もっかと訊ねると妹は嬉しそうに笑った。俺はじゃあ注いでくるよと台所へ向かい食器棚からコップを取り出す。二つのコップにファンタを注ぎ、片方にもらった媚薬らしいものを二滴ほど(ラベル表記より)垂らす。ファンタの色合いはもちろん変化はなく匂いも特に変わりがなかったので、俺は安堵してそのファンタの入ったコップを神楽に手渡した。
「ありがとネ」
満面の笑みでコップに口をつけて、神楽は一気に嚥下した。そしてお代わりが欲しいと言うので再びファンタをコップに注いでやる。その間に何か神楽に変化がないか目を凝らしていたのだが、しばらくしてからも神楽は何にも変わった様子を見せなかった。
(……なんだ)
「効かないじゃん」
何が、と訝しげにする神楽を横目につまらないとごろり床に仰向けに倒れ込む。剥き出しの肌に床は冷たくて心地良かった。期待が外れてしまったのでテンションはだだ下がり、瞬間仕事の疲れがどっと押し寄せてきたのでそのまま眠ってしまおうと思った。目を閉じてもし媚薬が効いてしまっていたらそれはそれで萎えたかもしれない、と無理矢理ポジティブシンキングする。
だがとりあえず次の仕事で薬を渡してきた奴に会ったら本気でしばき倒してやろうと思った。