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 神威誕文再録




 浜辺は静かだ。
 神楽の手首を掴み、夏の真ん中の真っ青な大空の下、ふたり歩いている。

 「……傘、邪魔」

 「こら」

 「…………」

 地球に来てどれくらいかは知らないが、やはり神楽の肌は白い。透き通りそうな白さに不釣り合いな陽射し。

 「……兄ちゃん」

 掴んだ手首が重くなる。振り向くと神楽が立ち止まっていた。だらりと垂れ下がる神楽の細い指。

 「どしたの?」

 何も履いていない神楽の足を波が掠めた。どこか遠くに靴を脱ぎ捨ててしまったのだろうか。思案していると神楽が続けた。

 「わたし、ここに生まれたかったヨ」

 傘の下俯いて神楽が呟く。

 「地球で生まれて、地球で生活して、地球で年をとって、……そうやって生きたかったアル」

 どうしてそんな思いに至ったのだろうか。不思議でならない。

 「俺は夜兎で良かったけどなあ」

 俺は頭をぼりぼり掻く。三つ編みが少し解れた。

 「でも夜兎じゃあ傘なしで浜辺を歩けないヨ」

 確かにその通りだが。

 俺は海を見る。ただ広がる一面の青の中央を、水平線が横切って分断させる。変な感じだと思った。

 「神威?」

 視界が二つの丸い青に切り替わる。青空を切り取ったかのような神楽の瞳。ぼーっとしてるネと神楽が言うので俺は笑うと考えもなしに空も海も青いねと訳のわからないことを言ってしまった。すると神楽は笑顔で俺の瞳を覗き込む。

 「兄ちゃんの目は海の色アルな」

 (………ああ、)

 ぎり、目尻が痛くなる。無邪気な妹の発言に悲しくなる。目の色は同じのようで、俺たちはきっと違う。やはり血が繋がっていようと別個体なのだと思い知らされた気がした。

 (…同化することはできないんだよなあ)

 いつも会えなくていつか誰かと添い遂げてしまうなら、俺が神楽のすべてを手に入れたい。だがこの空と海のように永遠に遮断される。どんなことをしたって混ざりあえない。感性も思考も存在の仕方も日常も、望むことはいつもずれていく。今俺が考えていることを神楽は考えもしないだろう。



 「……神楽の目の色は、空の色だね」



 言ってしまったら果てしない虚無感に襲われるであろうことはわかっていた。俺と神楽は同じじゃないと認める行為に等しいから言ってはいけないとわかっていたのに。

 「神楽」

 俺の言ったことにえへへと笑う神楽の手首を思いきり引き寄せての腕の中に納めてやった。神楽は驚いた声を出したがそのまま砂浜に仰向けに倒れ込むと傘が手のひらから弾けて波にさらわれていく。

 「……兄ちゃん?」

 俺の上に乗っかった神楽の不思議そうな声と、ざあと波が寄せられる音がする。空の太陽が真っ白な厚い雲に光を遮られて陰りができた。安堵して神楽を見上げる。
 遠く波が引いていく音がした。同時に砂が巻き込まれてしゃらしゃらという音。そうして今だけでも混ざりあいたいと思う。

 俺は叶わない願いを胸にしまい込んで、起き上がって神楽の頬を両手で包むと、そのまま神楽の額に唇を寄せた。



……………………………………………




 浜辺でキャッキャッウフフ



 タイトルは変換ミスにより生まれました
 どういうこと



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