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 欠伸をする。穏やかな日差しに包まれた中での午睡の白昼夢。靄がかったような朧気な映像。兄の生命線を思い出す。

 短い、とわたしは兄の掌を見てそう言った。親指の付け根の下あたりで切れたそれはひどく脆そうに見える。線を指先でなぞっていると兄がわたしの手を捕らえた。反らした手に浮き出る浅い溝。長い、と兄はわたしの掌を見てそう言った。親指の付け根を越えて手首すれすれに消えてゆく。長生きしそうだね、生きることに貪欲だなあ神楽はと兄は揶揄するように笑っていた。
















 兄が血で汚れていく度に兄の掌を確認しようとする。気に病みすぎたか日に日にそれは短くなってきているような気がした。手相なんてあてにならないよと兄は言うがどうしたって気になるものは気になるのだ。疎らな時間帯に兄の間延びした声が玄関で響くのを聞いてやっと安堵する、そんな生活を強いられているいたいけな少女の存在を忘れるな。



 「ここから出て行きたければそうすればいいのに」



 先取りのレクイエムでも捧げてやろうか、この男は自ら孤独に身を委ねようとしている。きっとお前はわたしがいなくなれば壊れてしまうのだろう馬鹿め。

 「兄ちゃんはわたしがいればここに必ず帰ってくるって知ってるヨ」

 「自信過剰」

 「うるさいアル」







 お前が消えればきっと困る。

 もし、このいたいけな少女に僅かでも憐れみを抱くのならば兄よ、必ず毎晩七時には帰宅し共に夕餉を食してくれないか。



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