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「腹へった」
なにか食わせてよと部屋に酔っ払いのように千鳥足でふらふらやってきた兄をわたしは冷めきった目で見た。
「喧嘩してきたアルか」
「ご名答」
「見ればわかるヨ」
わたしは兄の泥の付いた学ランから目を逸らすとふうとかなんか息ついて床にごろんした兄から踵を返してこないだもこんなんだったような気がすると眉間に皺寄せて記憶を辿った。そうしていると兄がわたしの思考の隙間に口を挟む。
「なんか食べさせてよ神楽なんでもいいから」
「料理は嫌いアル」
「ほらほら頑張って兄ちゃんのために」
ふざけんな何でわたしがお前なんかのために大切な米を炊かなきゃいけないのだ。でも足元で兄があんまりうるさいから仕方なく速攻で米炊いてでっかい丼に盛って永谷園のお茶漬けの素ぶっかけて湯をぶちまけて昆布と鮭を添えたわたしの唯一出来る料理、豪華な茶漬けを出してやったら嬉しそうにそれを兄は食べた。
「おいしい」
まるで日が暮れるまで外で遊んでお腹空かして帰ってきた子供がオカアサンの作った晩御飯食べてするみたいな笑顔でそう言うもんだからなんだか胸の奥がきゅうってして兄のことを何だかかわいいとか思っちゃってあー自分気持ち悪いと自己嫌悪に陥りそうになったというか陥った。
「………それ食べたらすぐ帰るヨロシ」
「今夜は帰りたくない」
「うわなにそのドラマの女みたいなセリフ気色悪いアル」
「あはは」
兄は丼の縁に口つけてずるずる残りの米を飲むようにして食べた。きれいに完食されていた。
「俺神楽が作るんなら毎日でもこれ食えるよ」
突然ぱっと笑って言うもんだから何だか恥ずかしくなって今日は帰れと兄の背中をぐいぐい押して玄関へと連れていく。兄はへらへら笑って冗談きっついなあと体を反転させて抱きついてきたからわたしも思わず兄の背中に手を伸ばす。それからいきなり思いっきり三つ編みを引っ張った。ぎゃっと兄が珍しく痛そうな声を出したもんだから笑ってしまった。