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寝起きの気分は最悪だった暑いクソ暑い。シーツを掴み身を縮こまらせて暑さによる頭痛に耐える。これでもかと枕に頭を押し付けて黙り込んでいた。
「………ヤメロばかむい」
「あは」
背中にぴったりと兄の感触がする朝。暑いのはこれが原因だろうか思考中も馬鹿兄貴の手が身体中を撫でる。気色悪い。
「おい聞いてんのか」
言うと兄の手が腹で止まった。
「……ねえ神楽」
「何だヨ」
「俺は男の子がいいなあ」
「はあ!?」
額から汗が噴き出す。なに気持ち悪いこと言ってんの兄ちゃん。
「……なんでそれをわたしに言うネ」
「その次は女の子でもいいよ。きょうだいが理想なんだよね」
聞いちゃいない。兄はその間もなにかしゃべっている。
「……無理アル。離れろ」
「あのさ」
兄が腹に手を回してきた。やばいもうやめてください本当。
「……兄ちゃん、」
「わかってんの、俺、だから」
「うるさい」
わたしがそう言うと兄の手がわたしの口を塞いだ。
「聞いてよ」
兄が手を離す。ふうとわたしは息を吐いた。
「……なに」
「俺ら離れてしまわないようにさ」
どきりとした、耳元で兄の声。
わたしはもうとうに離れることなどない気がしていたというのに。
「子供がいたら離れないだろ?」
兄の声が部屋に響いた。兄がなにを求めているのか。ちょっとわかってしまった気がする。わたしは少し間を開けて言った。
「そうでもないもんアル。子供いても離婚とかテレビやってるアルよちゃんと現実見えてますかあ」
「なにその言い方」
傷ついちゃうなあ。くすくす。
「ね、神楽。そういうことだよ」
「………」
きゅう。後ろから抱き締められる。こんな会話のせいで今が朝だと言うことを忘れていた。仕方ないなあと思う。
「……わたしたちの子供も、こうなっちゃうアルか」
「さあどうだろうね」
兄の手が再び動き出す。わたしは目を瞑って、幸福かもわからない未来のことを思った。