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 朝から少し体調が優れない気がしたが気のせいということにした。銀ちゃんと新八とで仕事に行った。今日もいつも通り、成金婆の飼っている猫を探すというものだった。
「雨降りそうですね」
 新八はそう言うと空を見上げる。確かに少し湿気た空気の匂いがした。





 三手に別れて探すことにして、わたしは路地に回る役目になった。ふと目の前がぐらついたので何となく額に手をやるととても熱かった。ああ風邪を引いているのだと思った。
「ねこ……」
 積まれたごみ袋の隙間や古紙の裏側などを探してみたが見つからない。そのまま路地の奥へ奥へと進んでいく。すると鼻先に冷たいものが当たった。雨だった。
「わ」
 勢いを増して、荒々しく叩きつけるように激しくなっていく雨に体の芯まで冷やされていく。寒い。通り雨だろうと思ったので一時的にでも雨をしのごうと屋根を探し歩いていくと、来たことのない場所なのに見覚えのあるような場所に出た。どこだっただろう。
(あ、家だ)
 と思った。幼い頃、家族みんなで住んでいた家の風景にひどく似ている。なんとなく幸せになった気がした。ふらふらとそこへ足を進めようとして、何かに躓いて、転ぶ、そのまま立ち上がれなくなる。
(寒い……)
 視界が雨でぼやけてよくない。倒れたまま顔だけ上げると、小さな子供がいた。その子は泣いているように見える。視線をずらすと少し離れた場所に、長い髪を結わえた男がいた。ばしゃばしゃばしゃ、と足元の水を跳ねさせながらその男は泣いている子供を一瞥もくれずどこかへ消えていく。
「にい、ちゃん……」
 何故かそんなことを呟いていた。呟きながら、わたしの意識はどこかへ飛んでいった。




 ふと名前を呼ばれた気がして、はっきりしていない頭のまま跳ね起きる、しかしぐら、と宙に浮かぶような感覚がしてまた倒れかけたわたしを、いつのまにか側にいた銀ちゃんが支えた。名前を呼んだのは銀ちゃん、だったらしい。銀ちゃんはどこも行かねえよと笑った。雨はすっかり止んでいる。
「大丈夫か」
「平気ヨ」
 しかし自分の声が頼りなく掠れたので強がる暇すらないことに気付かされる。わたしを抱え上げると銀ちゃんは、猫は新八が見つけたよと優しい声で言った。
「つかお前風邪引いてたんだな、気付いてやれなくてごめんな」
「わたしの勝ちネ」
「何だそれ」
 銀ちゃんがわたしを抱え直す。その時、わたしはさっきどうして銀ちゃんはどこにも行かないと言ったのか不思議に思って、何かわたしが意識のない内にわけのわからないことでも言ったのか尋ねようと銀ちゃん、と声を出したが銀ちゃんは寝とけと言うだけだった。うんと頷き目を閉じると眠れそうな気がしたのでそうする。さっきまでのことがすべて夢だったように思えた。



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テーマ「人外ファンタジー」
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