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端から見たら、おんなのこなの?みたいな、きゃあ、とかいった声上げる、そんな感じが似合うおとこのこ。わたしとよく似た顔をして、だけど神威はわたしと違ったにおいがある。
「虫、嫌いなんだよね」
罪もないやわらかな軌道で飛んでいた道端のかげろうを、ぱっとつかむ。そして殺しちゃうのと尋ねたら、おまえが嫌がるならしないよ、と笑った。
「兄ちゃんは、よくわからない」
かしこまって呟くと、兄は困ったようにへらっとして何年のつきあいだと思ってんの、って言った。
「五年ヨ」
「なーに言ってんの。おまえが生まれてからずっとでしょ」
「ずっとわたしのことほったらかしてたくせに」
わざと、ちょっと厳しめの声で言ってみる。少し間をおいて、神威の方をうかがったらへんな顔をしてた。気の弱そうな八の字眉。かげった目のあたりにやっぱり優しげな顔のつくりをしているんだなあって実感、しかけて神威はわざとそんな顔をしてるんだ、ってことに気づく。違和感がすごいから、じょうだんヨ、ってきもちわるいくらいあっかるく言ってみたら、なんでか神威はこころもち申し訳なさげに、眩しそうにわたしを見た。
ふと気づいたこと。神威の手のひらは、いつのまにかからっぽになっている。