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幼少兄妹
ぎゅっと握った妹の手を見下ろして俺は言う。
「はい、神楽ちゃん質問です。グーとパーはどちらが強いのかな?」
「……パー」
「わかってんじゃん」
だったら手、放しなよ。だが依然神楽は父の土産の菓子の入った小袋の端を握ったまま俯いている。
「……わがままはよくないよ」
ため息をついてみせると神楽の肩がびくりと震えた。別に自分としては神楽に譲っても構わないのだがどちらかといえば神楽を甘やかしすぎる傾向にある父は目に余る。俺がきちんと面倒を見てやらなければならない。
「ほら、兄ちゃんに渡して」
「………」
大きな目を潤ませて、未だ手を放さないこの妹は、そうしていれば菓子をもらえると思っているのだろう。甘いな。俺は神楽の手から菓子を奪い取った。
「やっ、兄ちゃんやーヨ!」
顔を悲しみに歪めて神楽は俺に手を伸ばした。うーうー言いながら一心に菓子めがけて必死になる神楽の姿は少し加虐心を煽る。いや別にいじめてるわけじゃないんだけど。
「……う、え」
目をぎゅっと瞑って、目尻から小粒の涙を零しながらぴょんぴょんするのをやめた。さすがにここまですることなかったかなあと思った。
「………神楽、ほら」
ぺたりと座り込んでしまった神楽の眼前に菓子を差し出してやる。途端に目を輝かせて、神楽は手を伸ばした。
「兄ちゃんありがとー」
さっかの涙はもう乾いたのか、いつもの神楽の笑顔。きらきらしている。
「どーいたしまして」
この笑顔が良くないんだよなあ、と思った。父の気持ちは実は痛いほどわかっている。神楽には優しくして甘やかしていつもいつも笑顔でいてほしいのだ。自分もまだまだだなあと思いつつ、まあ今日はいっかと半分諦めながら、菓子を食べる妹の頭を撫でた。