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 銀→神





 「…………あーあ」

 家に帰ると、神楽が床に転がって眠っていた。遊び疲れたのだろうか、と思いながら近寄ると目元がほんの少し赤くなっている。泣いていたのだろう。理由はわからないが。

 「よっ」

 何があったか後で聞こうと思いながらとりあえず引きっぱなしの神楽の布団へ。そう考え神楽の体の下に腕を差し込んで抱き上げる。う、わ。

 (軽)

 ちょっと気合いを入れたのに、思っていたより全然軽かったのに驚いた。

 「……………」

 神楽を見下ろすと視界に入る膝裏と背中を通過して脇の下に添えた自分の手。何となく神楽の体のわりに、自分の手が大きすぎる気がする。そこで軽く神楽の体を揺すってみた。それはいとも容易な行為だった。

 「ん」

 神楽は小さく声を出したが起きなかった。死んでいるみたいに白い神楽の肌。脆く今にも折れそうな骨。

 (俺しかこいつを守れないんだ)

 何故だか知らないがそう思った。
 本当は神楽の方が力も強いし、俺が守るだなんて力不足のように思える。だが、神楽を泣かせるのは許されることなんかじゃない。神楽を取り巻く悲しいことは俺が除いてしまわないと。
 それが俺だけの義務なんだと思った。
















 神楽を布団に下ろすととりあえず帰ってきたままの玄関の扉の鍵を閉めようとそちらに足を向けようとする。その時、後ろから小さく銀ちゃん、と神楽の声が聞こえた。

 「おかえり……」

 ほんの少し笑みを浮かべながら言う神楽に俺は近寄ると、ただいまと言いながら頭を撫でた。そして泣いてたの、と唐突に尋ねると神楽が不思議そうな顔をしながら銀ちゃんとまた呼んでくる。

 「どしたの?」

 「…銀ちゃんこそひどい顔してるヨ」

 躊躇うように神楽はぽつりと言う。あれ、そう?そう返したがどきりとした。

 「銀ちゃんこそ、何かあったアルか?……」

 ああ、この少女は。
 自分の話題に触れさせず、俺の話題へと転嫁しようとしている。

 「………何もないけど、お前のことが気になって」

 手を頭から頬へとずらす。神楽の体がびくりと震えた。

 「わ、わたしは、……何もないアル」

 みるみる神楽の頬が赤く染まる。それが何を示すのか。途端に何があったか訊く気も失せた。

 「……ならいいけど」

 あんまり神楽を悲しませた理由が下らないものだったので俺は立ち上がり踵を返すと神楽から離れる。この気持ちを表現するのに不愉快という言葉が一番しっくりくると思った。突然女を匂わす神楽を厭わしく思った。

 (…………男か)

 さっきまで神楽を守るのは俺しかいないと考えた俺が阿呆のように思える。だが恥ずかしいと思うのと同時に、よくわからないが悔しい気がした。

 何で、いつも側にいる俺じゃないの。

 何故そう思ったのか訳もわからないがぎりぎり胸が締め付けられる思いがした。少し泣きそうだった。



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 父性愛が異性愛へと変化する瞬間

 異性愛って何ぞ



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