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小さな頃ままごとをしようと言ったら、どうしてかいつもコントみたいな夫婦の設定になった。あらおかえりなさいあなた、ごはんできてるわよ、と言うとあなた の役である兄は笑ってそうか、お腹すいたなあと答えた。泥団子の夕飯をとり、そうしてお風呂に入る場面があって、ままごとは終わった。それからは大抵別の遊びに移っていた。
だけど今も終わっていない。
(恋人みたいな)
兄が買ってきた惣菜と家で炊いたご飯を食べてお風呂を沸かして。昔ならそこらへんで飽きる頃だが、今のわたしたちはここで終わらなかった。ベッドへ雪崩れ込んでお互いを愛撫する。それから挿入する。さらに律動して、息をあらげた今に至る。ふと泣きそうになる。
「昔よくままごとやったアルな」
「懐かしいね」
「うん」
目を閉じると明瞭に思い出すあの頃。わたしの頭の中の記憶を切り取って現像して、兄に見せてやりたいと思う。純粋だったあの頃はわたしの中で色褪せてはいない。
「……ずっと、終わらない」
「何が?」
「んーん、」
兄もきっとこの状態がままごとの延長線上に置かれたものだと知っている。銀時や新八と出会って輝きの増したわたしの世界で、それでもずっと兄は煌めいていた。
(あの頃)
兄がわたしの世界だった。それはたぶん、今も。
「あのままごと、楽しかったヨ」
「それは良かった」
兄から漏れた笑い声は少し掠れていた。思い立つ。わたしはベッドから足を下ろすと立ち上がって兄の方を振り返って言った。
「だからおしまいにしよう」
兄が瞬きした。
どういうこと、なんて白を切って、わかっているくせに。
アナタにとってはままごとでも
私にとっては世界の全てだった!