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 誰であろうと一人の時間は大切にするものだと思うのだが、妹が生まれてから俺は一人の時間が圧倒的に減ってしまったのが嫌で、妹の目を盗んでは妹から離れようとしたが、結局は妹に見つけられてしまうのである。しかし何年かして妹にはっきりとした自我が見られてきた。ら、妹は俺を追いかけてはこなくなった。俺一人の時間は確立され、比較的昔のように心穏やかに過ごせるようになった。そこで気付いたのである。
「神楽は?」
 母がまだ息をしていた頃、神楽はよく一人で何処かへ消えていく傾向が多くなっていた。母に神楽の行方を尋ねると悪戯っぽく笑って内緒。とだけしか答えない。
「心配なの?」
 と母に訊かれ少し苛立って俺はそういうわけじゃないと答える。それすら母は見透かしていたようでくすくす笑うのをやめてくれない。
「神楽は、あなたを見つけることがとてもじょうずだった」
 それだけ言うと夕飯の支度をしてくると言って母は行ってしまった。なんだかなあと思った。

 神楽を探しに家を出る。相変わらず同じような光景ばかり続く俺の住む町はうんざりするほどくすんだ色をしていて少しでも目立つ色をしていたら嫌でも目立つのだった。つまり桃色の髪の俺と神楽はこの町の風景に馴染まなかった。だから視界にいればすぐにわかりそうなものなのだが、いない。通りかかった十字路に立ち、目を閉じてその場でぐるぐる回って気持ち悪くなりながら目を開き進み出す。ぐにゃぐにゃする景色の中、俺はもと来た道を引き返しているのだと知った。そしてどうしてこんな訳のわからない行動を取ったのだろうと思った。そういえば神楽は西瓜割りが好きだったか。

 結局神楽は見つからなくて、そしてなぜ俺は神楽を探そうとしたのかわからなくて、帰ろうと思った。思っていたよりも少し遠いところに来ていた。空は既に、薄暗い。
「兄ちゃん!」
 神楽の声がして振り向くと神楽が俺を探して疲れたような表情をしていた。何故。
「お前、どこ行ってたの」
「このまえ外で遊んでたときに、ハンカチ落としちゃったのを探しに行ってたのヨ」
 この前、って俺はそれを知らないので、神楽はとうに俺の範疇外にいたのだなあと思った。
「そっか。よく俺を見つけられたね」
「マミーがばんごはん出来たから、兄ちゃん呼んできて、って言われたから、探しにきたネ……」
 ちょっと困った顔をして神楽が言った。母は、たぶん知っていた。
「……ははっ」
 神楽はなぜ俺が笑ったのか意味がわかっていないようだった。わかるはずがない。
「お前は、俺を見つけるのがうまいのにね。俺ってば」
「どういうこと?」
「こっちの話」
 かえろうか と言うと神楽は嬉しそうにぱっと笑って頷いた。



「母さん、晩ごはんは何って言ってたの」
「今日は酢豚って言ってたアル」
「パイナップル入ってる?」
「入ってるヨ」
「あちゃー」



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テーマ「人外ファンタジー」
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