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ほんのりピンク
例えるならまるで波紋すらない湖面みたいだった。
汗は掻いたけれどほんとうにゆるやか、声を出さないまじわり。
「添い遂げられないのが残念だね」
「じゅうぶんだヨ」
「そう?」
目を閉じるとまぶたに触れる唇の感触。兄は動かないでただわたしを抱き締めた。
「こうしてるだけで幸せなんてさ、俺らも変わったね」
「へんなかんじ」
「あの頃のがむしろ正しいんだけど」
あの頃って、いつだっけ。血まみれの掌を忘れていく。記憶を辿って目を開けようとしたけれど唇を重ねられたのでやめる。頭の中に綿菓子だとかそういったふわふわ甘いものがちらつく。熱でとろけて同化していく。愛してほしいな。手、繋いでよ。
「夢ならいいのにね」
そんなことを言うから腕を上げて、首に巻き付けた。きつくやさしく肌を重ねて体温を探る。これは夢だから、何も心配いらない。わたしがそう呟くと困ったような兄の笑い声が耳元でした。
「夢なの?」
「そう、夢ヨ、ぜんぶ夢。だから、」
言うやいなや下半身に力をこめた。こちらへどうぞ、柔らかく誘導する。この体温、自分のいるべき場所はひとつだけって知っているはず。
どうせこんなことは、誰も知らない。