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兄が笑えるほどボロボロになっているのを学校からの帰り道に見つけた。影が随分長く伸びる橙の空の夕暮れ、住宅街の外れのコンクリートの壁に背中を預けて兄は座り込んでいた。
「兄ちゃん」
静かに近寄ると明らかに兄はびくりと肩を震わせたが、それは反射的なもので声の主がわたしだと理解したらしいその瞬間緩やかに顔を上げた。ああ、と小さく兄にしては情けない声を出して立ち上がろうとする。「っ、」どこか怪我をしているのか少し辛そうだった。
「無理するなヨ」
「してない。ちょっと休んでただけ」
「だっせえアル」
「勝ったから、ちゃんと」
向こうであいつら倒れてるよ、なんてどや顔で不確定なことを言いなさる。きっと本当のことだと思うが。
わたしはこのまま放っておこうかと思ったがそれは少し躊躇われたので兄を見下ろして言う。
「肩貸したげるヨ。ほら」
手を差し出すと兄は笑ってゆっくり立ち上がった。傷の癒えが早いのは流石だ。まだ痛みはありそうだがもー平気、と兄は言う。
「わ」
しかし歩き出そうとしてふらついたので足の骨がいかれてる、わたしはそう思って咄嗟に兄を支えた。兄の左腕をわたしの肩に回す。しかし、軽い。
「よせって」
身を捩った兄の足を軽く蹴る、すると兄は黙った。わたしにかかる重みが僅かに増える。傷付いて少し力の弱まっている兄。この瞬間の主導権を握るのはわたし。
「少しは頼ってヨ」
歩き出す。少しずつゆっくり確実に。兄が耳元で頼りなげに呼吸している。
「どうせこんな状態今日だけネ」
「……そうだね」
ようやく諦めたように兄はわたしに体重を預けた。一歩踏み出す足が重くなる。だけどその重みが、嬉しかった。