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「じゃあわたしは行くアル」
 きし、とベンチが軋む音がして顔を上げた。彼女の白い肌は薄暗くてもよくわかる。それが離れていく。
「待てよ」
 座り込んだまま声を出した。彼女は立ち止まる。
「何」
「用事でもあんのかィ」
「別に。ただ暗くなってきたアルから」
「じゃあここに居ろよ。暇だろ」
「どうしてお前に命令されなきゃいけないアルか」
「じゃあ居てください」
 彼女は驚いた顔をして何だヨと言った。
「いいから。後十分だけでいいから」
「わたし寒いヨ。一人で帰るのが嫌なら屯所まで着いてってやろうか」
「帰りたくねえんでさァ」
「はあ?何で」
「うん、だからここに居て欲しい」
 彼女は終始わけのわからなそうな顔をしていたが戻ってきて隣に座った。またベンチが軋む。ふう、と彼女の吐いた息が白く広がった。それは外灯に反射して煌めく。暫く無言状態が続いたのち、隣で彼女が身動ぎして言った。
「理由はきかないけど、一人が嫌なのは、ちょっとわかるヨ」
 彼女はベンチの上で三角座りする。彼女の膝の上の、寒さで少し赤くなった柔らかそうな手の感触を思わず想像したら何故か涙が出た。どんな感情でもって溢れたものかわからなかったが、とりあえず誤魔化すように俺は無言で頷いて俯く。すると不意に頭に冷たいものが乗った。それがチャイナの手だと理解した瞬間あやすように撫でられて何となく姉上を思い出す。そしては、と我にかえった気がした。
(何で姉上を思い出すんだよ)
 守るべき大事なものに守られてきたことに気付いて情けなく恥ずかしくなった。だが俺は無意識に頭上の彼女の手を握っていたのだ。



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テーマ「人外ファンタジー」
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