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放課後、神楽は誰もいない教室に忘れ物を取りにきた。筆箱を机に入れっぱなしにしてしまっていたので家で筆記用具がなく大変な思いをした。神楽は目当てのものを見つけると帰ろうと思ったが、何となく銀八の教卓を覗き込んでみる。空っぽだと思っていたその中に、一冊の本が入っていた。
課題未提出者は神楽だけだった。
「先生、読書感想文なんて書けません」
「でもちゃーんと皆、出してるんだよねー」
「マジでか!?サドは!?」
「……あいつ結構深いこと書くのな」
「出してやがったアルかああああ!!」
神楽ちゃんここ職員室だから、という声は届いていないのだろう。銀八は溜め息をついた。
出す気もなかったから本すら家になかったので、仕方なく神楽は帰りに本屋に寄った。携帯小説は断固認めませんからあ、と銀八が言っていたのを思い出し、どうしようかなと棚の間をうろうろしてそうだ頭良さそうに見せてやろうと思い何となく古典的なものを手に取る。そうしてぼんやり、この間の放課後を思い出した。あの本なんだっけなあ。表紙だけは覚えてるのに。
考えながら一冊の本を棚から取り出すと、なんと銀八の教卓の中に入っていたのと同じ表紙のものだった。
「………無理ヨ」
神楽は机に突っ伏した。難しすぎる。普通に現代小説にすれば良かった。あー、もうお金ないし、失敗した。
(……にしても、先生がこんなの読んでるなんて)
机に突っ伏したまま、ぱらぱらとページを繰った。課題提出は半分諦めていた。
それでも気合いで読み終えて、神楽は正直によくわかりませんでした云々と感想を書いた原稿用紙を放課後銀八に提出した。
「こころ、か。お前えらいモンチョイスしたなー」
「よくわかんなかったアルけどな」
「いーよ別に。俺的に出してくれさえすりゃーそれで」
折角頑張ったのに、なんて適当な先生なんだと神楽は思った。
銀八はぎし、と椅子の背もたれに体を預けると神楽に笑いかける。
「お疲れさん。もう帰っていいよ」
「ね、」
「んー?」
一瞬仕事を片付けようと思ったかのように見えた銀八に再び声を掛ける。
「……教室の教卓に、銀ちゃんのこころ、入ってたヨ」
「俺の?」
銀八は怪訝そうな顔をして立ち上がると職員室を出て行こうとする。神楽は慌ててそれについて行った。
「………あー、これか」
銀八がごそごそと教卓に腕を突っ込んで取り出したその本はよく見るとまだ新しそうに見えた。
「それ見て、わたしも読んでみたアル」
「俺の真似したの?」
「本が見つからなかったから」
銀八は吹き出した。そうして、あのなと続ける。
「これは俺のじゃねえよ。前にここで落ちてたの拾って教卓ん中入れといただけ」
「えー……」
何だ、先生のじゃなかったのか。
目に見えて神楽が落胆したので慰めるように銀八はぽんと神楽の頭を叩くように撫でた。
「いいこと教えてやるよ」
「いいこと?」
神楽が不思議そうに顔を上げる。
「たぶんこの本、沖田のだ」
神楽の顔はみるみる羞恥で真っ赤に染まっていった。
それに気付かないであいつもこの本の感想書いてたからさ、と銀八が言い終わる前に先生のあほーと叫びながら、神楽は教室を飛び出していく。銀八は何が気に食わなかったのかわからないまま、ちょっと待てよーと叫びながら、その後を追いかけていった。
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銀八先生とお揃いが良かったのに、何でか沖田とお揃いになって激しく拒否反応を示すぐらたん的な
タイトルは最後走っていくぐらたんの目です