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 3Z





 兄に起こされて一日が始まる。
 そうして朝ごはんを食べて身支度を整えて、兄のいってらっしゃい、を聞いて家を出る。それが日常。

 でも今日は、兄のいってらっしゃいがなかった。

















 「……神楽、起きて起きて」

 「……何アルかあ」

 眠すぎて開かない目をこじ開けると焦ったような兄の顔があった。

 「兄ちゃんちょっと今日は早いから先出るよ。ごはん作ってあるからそれ食べてね」

 「………ウン」

 兄はわたしが起き上がって部屋から出るのと同時に行ってくる、と言って出ていってしまった。

 「いってらっしゃい……」

 兄がいない食卓。兄の声がしない。
 ぼんやり身支度を整えて玄関に立つ。そのときいつもの癖でいってきますと言いかけて我に返り家を出ると、鍵を閉め忘れて慌てて家に戻った。
















 学校で携帯を見ると兄からメールがあった。
 諸々の用事で帰りが遅くなるらしい。結びに晩ごはんは適当に食べておいてとあった。
 「どしたの神楽ちゃん」

 そよちゃんが心配そうに顔を覗き込んできた。眉間に皺寄ってると不安そうに言ってきたので何にもないアルと答える。

 「……そよちゃん、今日暇アルか」

 「今日?暇だよ」

 「放課後遊びに行こうヨ」

 「いいよー」

 そよちゃんと何か食べて帰ろうと思った。
















 結局色んな人に声を掛けたら姉御と九ちゃんも賛同してくれて、そうしたらゴリがマヨとどエスを連れて付いてきて、そんな感じにどんどん人が増えていった。最終的にクラスの皆も乗ってくれて一緒に夕飯を食べようということになり、だるそうに嫌がる銀八も連れて近くのファミレスに行くと、人数が人数で店の一角を貸し切ったような騒ぎになり、閉店間際まで騒ぐと時間はもう十一時を回っていた。
 お開きの時間になり、わたしだけ乗るバスが違うことに気付く。

 「神楽ちゃん、一人で平気なの?」

 「平気ヨ。このバス乗ったらすぐネ」

 「そう?」

 そよちゃんと姉御が不安そうに尋ねてきたが、わたしは笑って皆と別れた。一人でバス停に佇むと、何だか寒いような気がした。



















 「……………」

 未だバスは来ない。退屈なので何気なく鞄を漁ると底に酢昆布があって、腹は満たされていたが一枚口に放り込む。そうしてバスが来るであろう方向を覗き込んだ。

 「……ちぇ」

 明かりがこちらに向かって来るが、小さな明かりだ。バスではなかった。
 もう一枚酢昆布でも食べようと鞄を開くと目の前に明かりが止まる。

 「………?」

 バイクだ、と思っていると止まったバイクの持ち主が降りてヘルメットを外しながらこちらに向かってきた。誰、と心持ち身構えると、

 「……神楽」

 兄だった。

 「兄ちゃん!?」

 やーっと見つけた、そう言いながら兄が抱き締めてくる。何でここにいるアルかと訊いたが兄は何も答えず、わたしもそれ以上何も言わないですっぽりと兄の体に収まってみると、あったかいなあと思った。

 「あのさ」

 「うん」

 「……家に帰ったらさ、電気点いてなかったんだよ」

 「うん」

 「神楽のさ、おかえりがないと、家に帰った気がしないんだよね。だから探しに来ちゃった」

 「…………」

 わたしもだ、と思った。
 わたしも神威のいってらっしゃいがないと一日が始まる気がしない。

 「帰ろっか、神楽」

 兄が頭にヘルメットを無造作に被せてきたので、それを被るとわたしは兄のバイクの後ろに乗った。

















 幸い兄がヘルメットを被らないで運転していたのは警察に見つからなかった。
 無事に家に着き兄が鍵を開ける。そうして兄は玄関を退くと神楽先入ってと言った。言われた通りにすると兄が笑って言う。

 「ほら、神楽言って」

 何を言えばいいんだろう。少し考えて、あ、と思った。


 おかえり。





 兄の顔が綻ぶ。
 兄はただいまと言った。






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 設定がよくわからないですね
 3Z設定の神威だけ大学生バージョンなつもりですすみません
 その他は諸々捏造です





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