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 飲み干した牛乳瓶の飲み口からさながら双眼鏡のように覗き込む。世界が狭い。チャイナはいつもこんな世界を見ているのかと思った。
「お前、眼鏡変えた方がいいんじゃねえの」
 相も変わらず牛乳瓶の底を顔面にくっつけて怠惰そうにしている。そんな彼女の、瓶底眼鏡の奥に潜む目を俺は知らない。彼女は変えないヨ、と言った。いやでもさ、眼鏡って周りをよく見られるようにするもんだろ、それ視野狭めてんじゃん絶対。
「んーでも結構見えるもんアル」
「いや見えなかったんでィ」
「なんで知ってるネ」
 くすくす、困ったように彼女は笑った。彼女の表情は口元で判断するしかない。なあお前の目、笑ったときどんな形になるんだよ。気になって仕方がない。





 休み時間、授業中から続く眠りの中にいる彼女の眼鏡をそっと外してみる。桃色の睫毛が現れて少し緊張した。彼女は起きる気配すらなかったので躊躇いなくその眼鏡を掛けてみる。
(度、入ってねえじゃねーかィ)
「何やってんだ総悟」
 チャイナの眼鏡を掛けていると土方が声を掛けてきたが無視した。そのまま窓の外を見てみると白い雲が何個か浮かんだ側に何かの鳥がばたばた真っ青な空を横断していく、のどかな風景が目に飛び込んでくる。
 チャイナの世界。
(案外あいつの世界は広かったんだなア)
 少し重たい眼鏡を押し上げて、俺は瞬きした。



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テーマ「人外ファンタジー」
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