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 「帰るよ」

 兄が迎えに来る。また。

 「……先に帰るヨロシ」

 思いきりうんざりしているのに、兄は気にも止めないで早く早くと手招いてきた。

















 ざ、と少しでも人通りの多い場所に出ると兄はとても目立つ。髪の色などやや奇抜なところはわたしも同じなのに、兄の存在感は異質だ。

 (天上天下唯我独尊……)

 なんでこんな趣味悪い学ランを羽織るのだろう。こいつと並ぶだけで視線を浴びせられる妹の立場にもなってほしい。と思う。

 「……兄ちゃん」

 「んー?」

 「わたしを迎えに来るなら、その学ラン脱いできてほしいネ」

 兄は笑顔のまま、あーそれは無理だねと言った。迷惑な話だ。



















 「かーぐ、らっ」

 きっと今ごろ兄は名前でも呼びながらわたしを迎えに教室へ向かっているのだろう。だが今わたしはどこへいるか。

 (ざまあみろ)

 屋上で銀八と一緒にいた。

 「でー、兄が勝手にガッコ入ってくるからあ?警備を強化しろと」

 「そうアル」

 「無理」

 「無理!?」

 先生は煙草を燻らせながら空を仰いだ。
 わたしもそれに倣って見上げる。先生の煙が細く細く昇っていくのが見えた。

 「だってー、お前の兄貴怖いもん。警備の人雇っても死人出しちゃいそーだもん」

 「………」

 否定できない。

 「でもっ……」

 「諦めて一緒に帰れー」

 「…………………」

 じゃー俺職員室戻っから、そう言って携帯灰皿を白衣のポケットから取り出すと煙草をそれに押し込む。
 屋上を出ていく先生の背中を見て、わたしは何て頼りない大人だろうと思った。


















 すごく急いでいたから鞄を置きっぱなしで教室を出ていったのを思い出して教室に戻る。すると誰もいなくなっていて兄だけがよりにもよってわたしの椅子に座って机に突っ伏していた。

 「に………いちゃ、」

 兄はゆっくり顔を上げる。んう?と変な声を上げた辺りから見て本当に眠っていたように見えた。

 「あ、かぐら」

 どこ行ってたの?と訊いてきたのでいらっとしてそっぽ向いて言った。

 「………先に帰っとけヨ」

 「どしてさ」

 きょとん、という表情をする。鬱陶しい。気付けばそう叫んでいた。

 「…………………」

 兄の顔が悲しそうに歪む。
 そんな顔するとは思わなかった。

 あ、違うそうじゃなくて

 言いかけて言えない。
 兄はそっかとだけ呟くとわたしの横を通りすぎて教室から出ていこうとする。その背を追いかけようとして、不格好に伸ばした手は空を掴んで。

 (……いかないで)

 「にいちゃっ……!」

 兄を傷つけたのはわたしなのにずっとわたしが傷ついた様な声を出してわたしは叫んだ。その瞬間バランスを崩して転んだわたしを兄は振り返って戻ってきて手を差し出す。顔を上げると満面の笑みで兄はごめんネと言った。




…………………………………………
 (…………演技かヨ)





 神威は妹を困らせるのが趣味だと禿げる



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