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 放課後に今晩はおでんにしようと思い立ちスーパーに寄るとあれもこれもと買ってしまい最終的にビニール袋で両手が塞がるほどになっていた。気持ち的にこれで一週間分の食料、父の仕送りも殆どなくなったから大切に食べていかないといけない。メニューを考えながら肩に掛けた学校の鞄がずり落ちないように歩く。
「神楽」
 突然呼ばれ振り返ると兄が悠々と歩いてきた。何アルか、と家ばれしたくないわたしは立ち止まる。折角の心地いい独り暮らしを邪魔されたくない。
「すごい荷物だねえ、手伝ってあげようか」
「結構です早く帰って」
 兄が立ち去るのをじりじり待つ。すると兄は帰らないの、と訊いてきた。わたしが重たい荷物を持って立ち往生しているので当たり前っちゃあ当たり前の問いである。
「兄ちゃんは帰らないアルか」
「妹を送ってあげようと」
「家までついてくる気?」
「あは」
 うわあ鬱陶しい。わたしは兄ちゃんに家に来てほしくないのヨと言った。兄は驚いた顔をした。
「えー何で」
「察して欲しいアル」
「うーん」
 兄はやはり動こうとしない。わたしはわざとらしくため息をついた。
「じゃあどうしたら帰ってくれるネ」
「ん?そうだなあ」
 妥協はしてくれるらしい。兄は少し唸って考えている風だった。
「そうだ」
「何」
「チューしてい?」
「ぜったい嫌」
「じゃないと帰んないよ」
 兄が一歩こちらに寄ってきたので一歩下がる。そんな感じに逃げていたら壁に追い込まれた。兄の顔が近付いたので押し退けたかったが如何せん荷物がわたしの邪魔をするのでどうしようもない。
「神楽、戸惑ってる」
「戸惑わないわけないアル」
「昔はよくしてたのにね」
「知らない!」
 睨み付けると兄が笑った。そして結局どうする、と訊いてきた。兄はわたしの承諾を待っている。苦渋の選択だが、安穏とした生活の方が大事だと思ったわたしは小さく目を伏せて頷いた。兄の手が顎に添えられる。
「……早くしてネ」
「どうかな」
 わたしは目を閉じて、唇を固く閉ざす。わたしたちのいる場所が人気のないところで、本当に良かったと思った。

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キスお題ったー様より
(帰り道で)(戸惑った表情)(壁に押し付ける)(同意の上でキス)




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