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 幼少兄妹 そして習作



 連日雨降りでうんざりしていたが今朝目を覚ますと外からしとしと音がしないので久々に晴れだと窓を見遣るとどうもすっきりしない曇天で、窓を開けると透き通るような冷気が肌を刺した。少し前だったか父が 晴れたら久々に何処かへ遊びにゆこうか と誘いを掛けてくれていたので 太陽こそ出ていないが今日はどうだろう と父に訴えると、ここ暫く仕事の忙しかったらしい父は眠たげな声で 晴れていないからやめとこう と言って眠ってしまった。わたしは子供なりに 仕方ないな などと大人ぶって諦めたふりをして外に出ると地面に絵を描いたりして一人遊びをした。しかし蝋石に力を込めすぎて大きく欠けてちびてしまい、そういえば予備がなかったのを思い出して涙目になっていると後ろから かぐら と声を掛けられ振り向いたら、兄がにこにこしたままこちらを見下ろしていて どうしたの と言うと 兄ちゃんと遊ぼうか とわたしの手を引いて庭から外へ引っ張り出した。わたしは父に何も言わず外に出たことが気掛かりで兄にそれを言うと さっき俺がちゃんと
言っといたよ と答えたので安堵した。
「どこへ行くの」
 と尋ねたら兄は笑って
「いいところ」
 とだけ答え、幼いわたしは納得してしまった。そのまま黙って歩き続けると風景が変わって人がたくさんいるところに来た。人がたくさんいる場所は苦手だが、兄がいれば大丈夫な気がして気にしないことにした。兄を見上げると何か探しているのかきょろきょろしていて、それからぱっと表情を明るくするとわたしに視線を寄越して こっちだよ とまた手を引いてきた。
「この間行った場所なんだけどさ」
 歩きながら優しい声で兄が話すので
「うん」
 とわたしも穏やかに相槌を打つ。
「そんな大した場所じゃないんだけど」
 たどり着いた場所はこじんまりとした石造りのなんとなく雰囲気のよい建物で、迷いなく兄はそこへ入った。すると受付に年を取ったおじいさんだかおばあさんだかよくわからない人が座っていて、ポケットに手を入れた兄は二百円を取り出すとおじいさんだかおばあさんだかよくわからない人に手渡した。するとおじいさんだかおばあさんだかよくわからない人は兄に二冊の薄い小冊子を手渡し、兄は一冊私に寄越してくれた。兄の手はいつの間にか離れていて、わたしは空いた両手で冊子を見てみたが、難しい言葉ばかりでよく理解できなかった。
 兄に手招かれついていった部屋の中には疎らな人影があり、ざらざらした感触のしそうな壁には白黒の写真や絵が掛けられている。どれもこれも白と黒ばかりで時折不安な気持ちになり自分の手のひらを見ると中途半端だが白と黒以外の色をしていたので、世界にはまだちゃんと色はあるのだとほっとした。
「おーい」
 兄がわたしを呼んだので慌ててそちらに行くと、短い廊下を抜け新しい小部屋に来た。そこはわたしたち以外誰もおらず、さっきと違い写真や絵のない殺風景なところで、ただ部屋の真ん中に大きな大砲が置いてあった。兄が
「これはレプリカだから触ってもいいよ」
 と言ったので大砲の筒の中を覗き込んでみると思っていたより広く中に入れそうだと思ったので頭を突っ込んでみた。するといきなり後ろから足をぐいぐい押されわたしは大砲の中に入ってしまった。砲丸の気持ちになった。が、すぐに怖くなり出たくなったが兄が塞いでいるのか出られない。すぐそこに兄はいるのに怖くて仕方なくて大砲の中でわたしはしくしく泣いた。兄は気が付いたのか泣いていると外に出してくれた。何か悪いことをしたわけではないのにどうしてこんな仕打ちを受けるのだろうと思うと悲しくて余計に泣けた。兄は そこまで怖がるとは思わなかったよ と笑いながらわたしを抱き上げてよしよしと背中を軽く叩く。兄が泣かせたのに単純にもわたしは安心してぐすぐす言いながら兄にしがみついた。こんなに怖い場所が、いいところであるはずがないと思った。
 帰り路でまだぐずっているわたしを、兄は大砲のあった建物の側にあった駄菓子屋に連れていった。わたしと同じくらいの子供たちが何かを食べていて、わたしも 同じのがほしい と思った。兄にそう言うと兄は店番をしているおばさんに あの子供と同じものをください と言い、やがてそれはわたしに渡された。みずあめと書かれた淡い青色をした器に色のない粘りけのある何かが入っている。器と共に受け取った割り箸で それを練ってから食べるんだよ とおばさんに言われわたしはひたすら練り始めた。兄はわたしを眺めながら瓶に入ったラムネを飲んでいる。おばさんが それくらいでいいよ と言ってくれたのでわたしはいくらか粘度の高まったそれを舐めた。不思議な食感がしてわたしはそれをおいしいと思った。わたしはそれだけでさっきの大砲のことを忘れているのだった。



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テーマ「人外ファンタジー」
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