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 珍しくべろべろに酔って帰ってきた神威をどうにかしてベッドまで連れていく。部屋が酒臭くなるのが嫌で少し冷えるけど窓を開けた。
「……」
 聞こえない程度の声量で兄は、何か呟く。俯せにさせて上着を脱がせながら口元に耳を寄せるとごろんと体を反転させ、まるで首を絞めるように腕を回してきた。反動で転ぶように彼に体重を預ける形になる。苦いような酒の臭いが兄の口からした。
「……ぐら」
「なにヨ」
「……ぐらぐらする」
 名前を呼ばれたかと思った。思わずわたしは顔をしかめて突き飛ばすように兄から離れる。なんとか脱がせた上着を部屋のハンガーに掛けると、電気を消して部屋を出ようとした。ありがとうや、ごめんなさいのひとつもないのかと半ば呆れた気持ちでもって。
「神楽」
 扉を開けた瞬間背後で、掠れた声で兄が言う。振り向くと兄はベッドに体を預けたまま、しかし顔をこちらに向けて腕を一本差し出してきた。
「……一人にしないで」
 泣いているように聞こえた。兄が酔っ払うほど飲んだ理由は知らないが、情けなくも寂しくもなり兄に足を向ける。そうして側に膝を下ろすと差し出された腕の先の掌を握ってやった。すると漸く安堵したように兄は小さく笑うと目を閉じる。しばらくしてから手を離そうとすると兄がわたしの手を握り締めたまま眠ってしまったようで離したくも離せず、どうしようもなくなってしまった。お腹空いたなあ。
「……まだわたし、ご飯食べてないヨ」
 一人は嫌だ。(知ってる。)じゃあなんで一人にするの。

 居間のテーブルに並べた晩ご飯の湯気はとうに消えている。今が何時か、神威は知ってる?



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タイトル:棘



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