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 クリスマスイブだからと万事屋に人を呼び鍋を食べた。大勢のクリスマスは楽しい。ひとしきり騒いで、大人たちはアルコールに潰され、気付けば部屋のそこら辺でみんな雑魚寝をしていた。安い瓶の酒やジュースの缶が転がる中、わたしはぽつり意識を保ったまま、残ったつまみをかじったりして、ぼんやりしていた。わたしも、ひどく騒いだ。のに、眠さがやってこなくて、少しだけ口をつけた酎ハイの酔いを醒まそうと、玄関から外に出る。雪が降っていた。少し寒いと思ったが、体は火照っているし、ちょうどよい。深夜だというのに、まだ街の明かりは消えていなかった。今日はどんな人々もクリスマスなのだ。いたるところにいるサンタクロースがきっと、街中を飛び回っているのだ。
 妙に寂しい気持ちになって、体も冷えてきたし、部屋に戻ろうと思った。
「あれっ」
 そう思った瞬間、声と同時に、とん、と軽やかな音がしたのでそちらを見たら、なんと思いもよらぬ人物がいた。
「……か、むい?」
「ははっ、やっぱ神楽か」
 地球にいるはずのない兄だった。
「なんで、こんなとこに」
「家の中にいると思ったのになあ」
 わたしの問いかけのような呟きには反応せず兄はわたしに近寄ってきた。街灯に照らされ見えた兄の髪や肩先には雪が少しかかっている。それを払いながら、右手に持っていたらしい赤と緑のチェック模様の紙袋をわたしに差し出した。
「これ、なに……」
「なに言ってんのクリスマスじゃん」
「え、えっ」
 受け取りながらわたしは戸惑ってしまって、中身を暴くわけでもなく、ただ黙って袋を見つめた。
「神楽?」
「…………」
「あり、もしかして俺外しちゃった?」
「……ちが、」
 ようやくわたしは兄からプレゼントを貰えたという事実を実感して、それがあんまりにも嬉しくて、涙が出てきてしまった。
「うわっ、どーして泣くのさ」
「だって、まさか兄ちゃんが、」
 兄は苦笑混じりにハイハイと言いながらわたしの頭を撫でる。冷えているはずの兄の手のひらが、少し温かく感じられた。
「……ねえ兄ちゃん、わたし、お返しできるものがないヨ」
「えー」
「ご、ごめんなさい」
 困って俯いてしまったわたしの頭上で兄の笑い声がした。それから、頭の天辺にあった手のひらがさっと動いてわたしの前髪を払い、額に熱いなにかが押し付けられる。一瞬遅れてそれが、兄の唇だったと気付いた。
「うぎゃっ」
「メリークリスマス!」
 わたしがびっくりして口をぱくぱくさせている間に、悪戯っぽく笑って兄は去っていってしまった。
 兄が見えなくなってから袋を覗くと、クリスマスらしい色とりどりのお菓子が無造作に詰め込まれていて、兄らしいなあと思った。その中の、杖のような形をした、原色の飴を取り出す。袋を破いて、カーブしている部分を口に含んだ。あ、兄にお礼を言えていない。その瞬間に思い出して、さっきの兄の笑顔が、口の中に広がる甘さと一緒に、胸に刺さる気がした。



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