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 夜空にお星さまがきらきらした夜だった。その中でひとつ、ちかちか瞬きながら星に紛れて空を横切る飛行船が見える。異国船だろうか、また刀を磨かなければならない。

「銀ちゃん……?」
 この頃寝付きが悪かったのだが、仕事から帰ると疲労には勝てずソファでうたた寝をしてしまっていたらしい。ふっと目を開くと心配そうな顔をした神楽が俺の顔を覗き込んでいた。頭ははっきりと冴えている。夢と現実は混同していない。
「寝言とか、俺、言ってなかったか」
「うん。だからだいじょうぶヨ、ここは何もないアル」
「……ああ、そうだな」
 物わかりのよい神楽の笑みに安堵した。
 稀に飛行船の音や、夜の喧騒に昔を思い出す。戦うことに躊躇はなかったが、それなりにトラウマになっているのかもしれない。無意識に木刀に手をやる癖がある。
「何年も前のことなのにな」
「わたしだって子供の時に観たホラー映画、今もよく覚えてるヨ」
「今だってガキだろ」
「怖かったものは怖かったアル」
 むくれる神楽の頭をぽんぽんと撫でながら、死ぬ気だったあの時の俺は、やはり恐怖していたのだろうと思う。格好ばかりつけていたが、やはり生きていたかった。
「銀ちゃんは弱虫だから、甘えていいヨ」
「んだよ、お前こそ」
「わたしは今までたくさん甘えてきたから、今度は銀ちゃんのばん」
 今度は俺が神楽に頭を撫でられ、自分の役目を奪われた気がしてなんとも言えない気持ちになったが、すこし幸せな気になる。今まで甘えるということをせずに生きてきたから不意にこういうことをされると弱かった。喉の奥が熱くなる。
「銀ちゃん」
「うん」
「さいきん寝てないの、知ってるアル」
「うん」
「ちゃんと寝たら」
「……」
「ひとりが嫌なら、ついてってやるネ」
 神楽は笑って俺を久方ぶりに使う寝室の布団に入らせると、毛布を俺に掛ける。そして隣に寝転んで、何度も、だいじょうぶだと言った。




……………………………
(明け方の悪夢)



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