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 「雨」

 スーパーから出ると情け容赦無く雨が降っている。雨の勢いさ、家のシャワーと大差無いじゃん、ねえ?妹に同意を求めると肯定された。

 「こんな時に傘持ってればいー兄ちゃんなんだろうけどさ」

 ごめんね、雨をしのげそうなモノはなーんにもないや。

 「最初から期待なんかしてないヨ」

 あっさり冷たい声を出してほら、とさっきから鞄をごそごそやってんなあと思っていた妹が折り畳み傘をぱんっと広げた。しかし如何せん折り畳み傘、二人を並べて納められるほどの大きさはない。

 「兄ちゃん。持って」

 傘の持ち手を預けられる。ざあああ、淡い花柄模様の傘に守られて我が家へと向かう。お互い傘からはみ出した肩半分をじっとり濡らして、だけど案外不快でない。ぽつぽつ会話を交わしながら俺は、少し妹の分の傘の面積を増やした。俺の腕から下げたスーパーのビニール袋ががさがさ音を立てる。





 「はい、袋ちょうだい」

 家に着くと自分の持っていた袋と俺の袋を持って台所に妹はすぐ消えていった。俺は玄関先に折り畳み傘を置くと最後らへんあんまり傘に入っていなかったのでぐっしょぐしょになった体を拭こうと洗面所に向かう。

 「兄ちゃん」

 タオルで頭を拭いていると不意に妹の声がしたので振り返る。うわちゃんと服着ろヨと妹が嫌そうな顔をした(ついでに着替えようと上の服は脱いでいたのを忘れていた)。

 「まーいいじゃん。どしたの?」
 「着替え持ってきたヨ。はい」

 乾いた部屋着を手渡され、気のきく妹だなあとしみじみ思う。

 「それとネ、兄ちゃん」
 「うん?」
 「傘、ありがとうネ」

 妹は俺が妹に傘を大きく傾けていたのを気付いていたらしかった、今日珍しく素直な妹はそう言って洗面所を出て行く。少し紅潮していた頬を俺は見逃さなかった。先刻俺は妹にとって良い兄ちゃんだったのだろう、ああいった態度の妹を見るのは中々悪くないと思った。



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